矢沢永吉「年を取るってのは魂が老けることじゃない」

[ 2022年8月9日 11:30 ]

矢沢の金言(9)

14年8月、野外フェス「SUMMER SONIC」で大観衆から声援を浴びる矢沢永吉
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 デビュー50周年を迎えた日本ロック史上最大のスター、矢沢永吉(72)が激動の人生を自らの語録で振り返る大型連載「YAZAWA’S MAXIM 矢沢の金言」(毎週火曜日掲載)。第9回はさまざまな壁を突き破ってきた中、世代という新たな壁に挑んだ時の言葉。今月から定額聴き放題(サブスク)の音楽配信を全解禁。来月で73歳になる今もハングリーに“世代の壁”を乗り越えようとしている。(構成・阿部 公輔)

 矢沢、今月から全638曲のストリーミング配信始めました。なんか「冷やし中華、始めました」みたいだね(笑い)。でも、まあそんな感じです。

 あらゆる曲がスマホを押せば聴けちゃう時代。サブスクで聴き放題に抵抗はあったけど、俺がレコードに針を落としてビートルズ聴いてた時代とは違うのよ。そんな時代の流れもあるし、若い人が昔の矢沢の曲をダウンロードしてバンバン聴き始めている流れもあった。だったら指くわえてらんねぇし、全部やっちゃおうと。

 でも、こういう時代だからこそ、ライブを見ることの価値、生で聴かせる価値は高まっている。実際、今月末の東京・国立競技場から始まる50周年記念ツアーには若いファンもたくさん申し込んできている。だったら見せたいじゃない。これが本物ってヤツを。いくら年取っても俺の魂はキラッとしてるぜ!ってところをね。

 「年を取るってのは細胞が老けることであって、魂が老けることじゃない」。そう言ったのは20年くらい前。でも当時はそう思ったというより、そう思いたかったんだ。その頃、2003年の夏に野外フェスというものに初めて出演した。

 いくら何十年ライブやってきたとはいえ、矢沢のファンの前でしか歌ってこなかった。それがいきなり、矢沢をよく知らない若者ばかりの所にサプライズで飛び込んだから、最初は戸惑った。でも、英ウェンブリー・スタジアムでの経験があるから。3年後のロック・イン・ジャパンのステージを見た人たちから一気に若いファンが増えていった。

 世代を超えたミュージシャンたちとの交流も増え、自分のインディーズレーベルを設立して活動していたバンド「Hi―STANDARD」の横山健(52)と出会ったのも、この頃。アイツは「矢沢さんがアーティストの権利の扉を開いてくれた」といろんな所で言いまくってるけど、そんなことはない。業界を敵に回して戦ったのは事実だけど、シンプルに「俺の取り分よこせ!」と主張しただけ。横山には言うんだよ。お前の方が凄いと。自分たちでインディーズのレコード会社つくって成功したんだから。仕組みを変えたんだから革命ですよ。

 俺は当時の業界の常識をブッ壊したけど、仕組みを変えたわけじゃない。だから08年に自分でレコード会社をつくった時、横山に教えてもらったことも参考にした。だってほら、僕は昔(吉田)拓郎さんがフォーライフレコードの社長になった時も、どんな仕組みなのか本人に聞きまくったでしょ(笑い)。

 俺はそういう話が好きなの。既にキャロル時代からメンバーと女の話でワイワイやるより、裏方のスタッフに業界の仕組みを聞く方が好きだった。だからアメリカ行った時も、どうやって制作してあの音を出せるのか、その仕組みから学んだ。ライブもそう。自分で制作会社つくって、失敗しながら自分のものにしていった。

 仕組みが分かると、どこが重要なのかが分かる。すると想像が膨らむ。そこから、組み立てることが好きなの。あの作詞家と俺のメロディーにあのエンジニアだったら…どんな音になっちゃう!?と想像するのが好きで。だからこそ組み立てには、直感とか湧き上がる感覚、つまり“俺なり”とか“自分なり”みたいなものが大事になってくる。それは当然、音楽も同じで。人生もそうかもしれない。

 だって、矢沢が最初から大手のプロダクションに入っていたら、どうだった?音楽だけやっていて、それはそれで楽だったと思うけど、今の矢沢永吉は間違いなく生まれていなかった。失敗したり裏切られたり、たくさんの遠回りの連続だったけど、壁にぶち当たりながらもなにクソ!と立ち向かってきたことが、今の矢沢を組み立てていったんだ。

 そうじゃなきゃ50代半ばで若者だらけのフェスに飛び込んでいかないし、72歳になってサブスク解禁しないよ。「年を取るってのは魂が老けることじゃない」って言葉は、老いゆく自分が自分のケツをそう言って叩いていたんだ。でも、この年になって思うね。矢沢、なかなかいいこと言うじゃん(笑い)。

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