「カムカム」算太また消える 演出担当者「寸止め」

[ 2022年3月1日 08:15 ]

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第84回で、商店街で話すひなた(川栄李奈)と算太(濱田岳)(C)NHK
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【牧 元一の孤人焦点】1日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第84回で、初代ヒロイン・安子(上白石萌音)の兄・算太(濱田岳)が、3代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)の前から姿を消した。

 算太は、2代目ヒロイン・るい(深津絵里)と、離れ離れになった安子に関わる重要人物。先月22日放送の第79回で再登場し、ひなたとの交流が始まったことから、伏線回収に向けて物語が動きだすかと思われた。

 算太はこの回で、るいが営む回転焼き店「大月」がある商店街で、ひなたと対面。ひなたから「うちのあんこは、絶品ですよ」とアピールされると、「ひなたちゃんを見ていると、妹(安子)を思い出す」とつぶやく。

 演出の石川慎一郎氏は2人の芝居について「台本を読んだ段階で、ひなたの笑顔と『あんこは絶品』という言葉で算太は十分に安子を感じるだろうと思ったが、現場で二人を見て、算太がその通り感じている様子だったので、そこで生まれたものをそのまま撮った」と話す。

 算太が「大月」の前まで足を運ぶと、店内から、るいの夫・錠一郎(オダギリジョー)が「るい!」と呼ぶ声。にわかに安子の娘の名前が「るい」だったことを思い出すと、複雑な表情を浮かべ、ひなたの前から姿を消す。

 石川氏はこの場面に関して「算太はかつて自分が安子の前から消えてしまったことに対する申し訳なさを少なからず感じていただろう。そして、その場から立ち去りたいという思いになるだろう。そういう話を撮影現場でさせてもらった」と話す。

 これまで演出を担当してきた安達氏もじり氏は「算太は、見た目は老けたし、人生を積み重ねてきた深みもあるにせよ、性格は全く変わっていない」と指摘する。

 算太が姿を消すと「それきり算太はひなたの前に姿を現しませんでした」とのナレーション。その後、場面は転換し、大月家の茶の間から、ひなたと大部屋俳優・五十嵐(本郷奏多)のエピソードへと移ってゆく。

 伏線回収に向かっていた矢印が回の途中で方向転換する形となったが、そこに、作者・藤本有紀さんの脚本の妙味がある。

 安達氏は「最初からずっと算太の出方が非常に難しいという側面があった。藤本さんには、最大限に効果的に出したいという思いがある。この回で算太と吉右衛門(堀部圭亮)がすれ違う場面があり、ここからいろいろ展開していくのかと思いきや、そこは寸止めになっている。絶妙な脚本だと思う」と話す。

 石川氏は「藤本さんの脚本は、私がこれまで読んださまざまな脚本より展開が早い。展開が早いのに、1本筋が通っているので、ついて行ける。ピークを迎えたと思ったら、どん底を迎える。伏線はしっかりと回収する。その楽しさを削らないように演出することにプレッシャーを感じる」と胸の内を明かす。

 安子とるいの伏線の回収はまだ先。算太がまた姿を現す時を待ちつつ、ゆっくりと物語を味わいたい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2022年3月1日のニュース