阪神新監督・矢野燿大物語

【矢野燿大物語45】あとワンアウトが遠く…まさかこんなところで

[ 2018年12月9日 06:00 ]

桜宮高3年、夏の大会終了後に仲間と(左から2人目)(矢野家提供)
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 高山知浩(現・高山トモヒロ)は最後の夏を前に、密かな自信を抱いていた。1986年春の大阪大会は8強。敗れたとはいえ、選抜出場の上宮相手に接戦を演じた。

 「ベスト8には行きたいな。いや、くじ運がよければ決勝まで行けるかもしれへん」

 練習試合でも近畿圏の強豪私学相手に、まずまずの成績を残している。自身の打撃も好調。市立大会の泉尾戦では次打者席にいた矢野の「おまえで決めろよ!」のゲキに応え、コールドを決めるサヨナラ3ランもかっ飛ばした。もっとも矢野からは「何でホンマに打つん?四球でええのに」と突っ込まれたけれど…。第68回全国高校野球選手権大阪大会。公立の雄・桜宮は優勝戦線に食い込んでくると見られていた。

 周囲の予想通り、桜宮は幸先の良いスタートを切る。初戦の山本戦は8―2。高山は適時打を含む二塁打と三塁打を放ったし、副主将の大前浩文は2安打、5打点の活躍だった。2回戦の金剛戦は4番・矢野も本領を発揮する。2本の二塁打で3打点。大前はまたも2安打、3打点と好調をキープし、5回コールド。10―0の圧勝だった。

 「練習試合も勝ってるし、大丈夫やろ」

 好調な滑り出しを見せたナインは意気揚々と3回戦の市岡戦に臨んだ。2回に下山晴仁などの3長短打で2点を先制。4回を終わって3―1と主導権を握っていた。5回表は満塁のピンチながらすでに2死。打席に5番・春名章弘を迎えた。

 「1点取った後やし、何としても抑えよう」

 矢野は冷静だったが、春名の打球は左翼線ギリギリに弾む。同点の2点適時二塁打となると、流れは止まらなかった。続く伊波栄一は打った瞬間にそれと分かる左越え3ラン。さらに1点を追加され、あとワンアウトから一挙6点を失った。

 「こんなに外野へ飛んできたんは初めてや…」。中堅手・高山は市岡打線のスイングの鋭さに脅威を感じた。8回にはダメ押しの3点を奪われ、まさかの8回コールド負け。矢野も1安打のみで、あれよあれよという間の幕切れだった。

 日生球場から外へ出ると、誰もがその場にしゃがみ込んだ。矢野も、大前も、高山も、下山も全員が泣きじゃくった。こんなところで負けるはずではなかった。7月26日。最高の仲間たちと過ごす夏は、あまりに短く、切なくもあった。

    ◇    ◇    ◇

 2010年7月、矢野の母校である桜宮は快進撃を続けていた。3回戦で優勝候補・大阪桐蔭を撃破。一方、矢野にとってはタイムリミットが忍び寄っていた。

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