【内田雅也の追球】「補手」が支えた快投 阪神・村上の性格をわかっていた坂本が選んだ直球中心のリード

[ 2023年4月23日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-0中日 ( 2023年4月22日    バンテリンD )

完封勝利の村上(左)と握手をかわす坂本(撮影・大森 寛明)
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 プロ初勝利を無四球完封で飾った阪神・村上頌樹で印象に残った姿がある。5回裏1死、中日・福永裕基に初安打を浴びた後である。

 3試合にまたがり、打者37人を連続で打ち取っていた。多少の落胆があってもおかしくない。走者を背負うのは中継ぎ登板だった1日DeNA戦(京セラ)以来だった。

 印象的な光景とは続く細川成也に中堅後方への大飛球を浴びた時だ。村上はマウンドから三本間をファウル地域に駆けおり、バックアップに走っていた。近本光司は捕球できる追い方だったが、それこそ懸命に走っていたのだ。パーフェクトだろうが、それが破れようが関係ない。やるべきことは確実に愚直にやる。真摯(しんし)で誠実な心が見えた気がした。

 「ああ」と試合後、捕手・坂本誠志郎も見ていた。「基本的にまじめなんです。そうしたことも普通にできる投手です。それが負けている時でもできるように、これからは彼も見られる立場になっていく。周囲に示せる手本となれるようになってほしいですね」

 やはり、捕手は投手を知る。2リーグ分立の1950(昭和25)年から阪神正捕手を務めた徳網茂が<捕手は補い手>だと著書『捕手への誘い』(71年発行・フォトにっぽん社)に記している。野村克也がよく書いていた「捕手は補手」の元祖である。そして徳網は<細大もらさず、投手の性癖を調査すべき>と助言している。坂本は村上の性格をわかっていた。

 前回12日の巨人戦(東京ドーム)で7回完全の快投を演じていた。あれ以来の登板で、相手も当然研究してくる。

 坂本は「相手が何を狙ってくるか、探りながら(試合に)入りました」と細心の注意を払っていた。慎重な立ち上がり。1回裏先頭、大島洋平を直球とカッターで2ボール2ストライクと追い込み、ひざ元直球で見逃し三振に取った。低めだが垂れずに伸びがあった。回転数が多く、いわゆる「ホップ成分」の多いフォーシームである。

 「大島さんが驚いたように見逃していました。あの真っすぐならいける。もっと真っすぐを頑張ってもらおうと思った。真っすぐを中心に、高めにも使いました」

 何も球速ばかりではないが、大島三振が145キロ。9回裏2死、最後の105球目も145キロ。直球中心のリードは正解だった。=敬称略=(編集委員)

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2023年4月23日のニュース