写真家・石黒健治と俳優・石橋蓮司の深くて良い関係

[ 2020年4月28日 09:00 ]

写真家の石黒健治さん。写真展「若き獅子たち」が開催された小宮山書店で
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】新型コロナウイルスの感染拡大で映画界も大打撃を受けている。劇場も大半が休館を余儀なくされており、とりわけミニシアターは青色吐息。政府の補償が不透明な中で、「淵に立つ」などで知られる深田晃司監督(40)らがクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げるなど、映画人が自発的な動きに出ている。

 緊急事態宣言に基づく外出自粛要請が解除され、大きなスクリーンで新作を楽しめる日が1日も早く戻ってくるのを待ちたいが、それまで配信やDVD観賞で凌いでいるファンは少なくないだろう。かくいう筆者もそんな一人だ。

 目下はこの人。大映の絶頂期を支え、生涯57本の監督作を残した増村保造作品にどっぷり浸かっている。谷崎潤一郎の原作を若尾文子と岸田今日子で映画化した「卍」(1964年)、安田道代(現・大楠道代)主演の「セックス・チェック 第二の性」(68年)、江戸川乱歩の小説を緑魔子を起用して映像化した「盲獣」(69年)、渥美マリ主演の「でんきくらげ」(70年)、関根恵子(現・高橋恵子)を主演に大映で撮ったラスト作「遊び」(71年)、黒沢のり子主演の「音楽」、そして当時17歳の原田美枝子をヒロインに据えた「大地の子守歌」(76年)などなど。

 シュールで大胆な映像を駆使し、人間の生と性の本質をあぶり出していく演出は圧巻で見応え十分。今見ても古さを全く感じさせず、なにより驚かされるのは女優の本気度。熱量の引き出し方は半端ではない。

 「音楽」は、増村監督が東大法学部時代に出会った三島由紀夫の小説を映画化した意欲作。若き精神科医が不感症に悩む女性の治療を通して、謎を解き明かしていく内容だ。大映を去り、行動社を設立してATGと組んで発表した第1弾だ。

 何気なくDVDのジャケットを見ていると「スチール 石黒健治」という文字が目に飛び込んできた。この作品に石黒さんが絡んでいたことを知らなかったのはうかつだった。

 御年85歳になる石黒氏は「広島 HIROSHIMA NOW」(70年)、「ナチュラル ONENESS」(92年)、高倉健さんの若き日を焼き付けた「健さん」(2015年)、「青春1968」(18年)などの写真集で知られる巨匠。今村昌平監督の「人間蒸発」(67年)で撮影を担当し、83年の「楢山節考」ではスチールを担当。81年公開の「無力の王」で自ら監督を務めるなど、映画界とも深くかかわってきた。

 ことし2月8日から3月1日まで東京・神田神保町の小宮山書店で写真展「若き獅子たち 石黒健治PORTRAITS OF THE 60,s」が開催された。石黒氏とは7年前に女優加賀まりこの連載を担当した際に写真をお借りした縁で面識が出来た。

 新型コロナウイルスの感染がじわじわと広がりつつあった頃だったが、「写真展にうかがいます」と連絡すると、わざわざその時間に会場に居てくれて久しぶりの対面を楽しんだ。「今度、石橋蓮司さんの連載を担当するんです」と話すと、石黒氏はニッコリ笑って石橋とのエピソードを披露した。

 「石橋さんと奥さんの緑魔子さんに付き合って、あちこち引っ越し先を探したことがあるんだよ」

 ちょうど魔子は妊娠中。生まれてくる子どものために広いところを探していたようだ。

 懐かしそうに振り返り、その頃に撮影した石橋の写真を連載用に1枚提供してくれた。後日、その話を石橋本人にすると、覚えていて「当時は石黒さんに撮らせてほしいと言われて断る人間はいなかった。それぐらいの人だよ」と述懐した。

 増村作品から始まって石橋蓮司まで広がっていく。石黒さんの人脈の凄さに舌を巻くとともに、出版時に送っていただいた写真集「青春1968」を改めてめくっている。

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