【内田雅也の追球】内角球の「恐怖」 2ランに適時打、オースティンにシュートを打たれた阪神・西勇

[ 2021年6月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0ー3DeNA ( 2021年6月25日    甲子園 )

<神・D>7回2死二塁、柴田を空振り三振に仕留め雄たけびをあげる西勇(撮影・大森 寛明)
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 阪神・西勇輝の投球で特徴的なのはシュートである。右足で投手板の最も一塁寄りの先端を踏み、さらに左足は大きく一塁寄りに開いて踏み出す。相当な角度を付けて右打者の内角に切れ込むシュートを投げる。

 当然だが、体に当たる危険が伴う。打者はもちろん怖いのだが、投手にも恐怖感が生まれる。

 通算251勝で殿堂入りした東尾修(本紙評論家)がシュートを覚えたのはプロ入り4年目の1972(昭和47)年だった。西鉄(現西武)投手コーチ・河村英文に握りや腕の使い方などを教わり、自分で工夫した。

 著書『ケンカ投法』(ベースボール・マガジン社新書)に河村の教えがある。<いわゆる鬼コーチ。少しでも気持ちが逃げた投球をしようものなら「バカモン!」とどやしつけられる>。そして<口酸っぱく言われたのが「強気」>だった。シュートを投げるには恐怖を去る胆力が必要だと伝えていたのだろう。

 東尾の通算165与死球はプロ野球最多。シーズン最多与死球は2度あった。

 1950―60年代に活躍したドン・ドライスデール(ドジャース)は「内角は投手のものだ」と語っている。右横手から内角を厳しく突き、シーズン最多与死球5度。通算154与死球を記録している。「ぶつけるのを恐れていては仕事にならない。ここに投げられる投手だけが大リーグで生活できる」

 この夜、西勇がDeNAの4番、タイラー・オースティンに浴びた右越え2ラン、右前適時打はともにシュートだった。本塁打は低めだったが真ん中に甘かった。適時打の方はコースは内角だったが、捕手・梅野隆太郎の構えたミットより内側で高かった。

 投手心理は繊細だ。西勇ほどの投手でも恐怖心がよぎったのだろうかと心配になる。

 オリックス時代にシーズン最多与死球が2度ある。西勇もまた、内角攻めの恐怖と闘いながら、実績を積み上げてきた投手である。

 今季は目下リーグ最多タイの与死球4個を記録している。死球の内容を見返すと、山崎晃大朗(ヤクルト)にスライダー、T―岡田(オリックス)にスライダー、近藤健介(日本ハム)にスライダーと、左打者膝下へのスライダーが当たったのが3個。残る1個は岡本和真(巨人)へのカーブすっぽ抜けだった。右打者内角シュートでぶつけてはいない。

 右打者にシュートを投げる時に恐怖心にわき上がるのか、と案じたのだが、そんなことはないようだ。西勇には胆力も度胸も、そして技術もある。指先のわずかな乱れが生んだ失投だったのだ。あのシュートも切れ味もよみがえるとみている。

 オースティンに打たれた以外は上々の投球内容だった。エースと明言する監督・矢野燿大が8回まで続投させたのも信頼の証しだろう。

 敗因は今季4度目の無得点に終わった打線で、西勇はクオリティスタート(QS)を達成してのタフ・ロス(辛い敗戦投手)だった。

 最後に一つ。8ゲーム差あった巨人に4・5差と迫られた今こそ、足もとを見つめたい。シーズンはまだまだ先は長い。勝敗に一喜一憂するのではなく、自分たちの野球をやれるかどうか。自分を見つめ直す時である。 =敬称略= (編集委員)

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