日本シリーズで明暗を分けたのは捕手の差 巨人日本一奪回の鍵を握る大城の成長

[ 2020年12月7日 11:42 ]

巨人の大城卓三捕手
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 故野村克也氏が健在なら、今年の日本シリーズをどう見ただろうか。自身の宿敵であり、ソフトバンクに2年連続で4連敗を喫した巨人を厳しく追及するのはもちろん、捕手の力の差を指摘したはずだ。ソフトバンク・甲斐と巨人・大城のことだ。野村氏は日本シリーズでの捕手の重要性を説き、自身の著書でもこう記している。

 「(日本シリーズを)経験した捕手は大きく成長する。たった1球で戦況が変わってしまうこともあり、無責任なことはできない。1球の重要性を思い知らされる。ヤクルトの古田敦也も大舞台を経験するたびに成長し、日本一の捕手と認められるようになった」

 シリーズはたった1球で戦況が変わる。大城は1球の重要性を痛感しただろう。

 千賀と菅野のエース対決となった第1戦。巨人は前年4連敗を喫し、今年も劣勢が予想された。先発陣も大黒柱の菅野頼み。絶対に負けられない一戦だった。菅野も初回、主砲・柳田に対して内角攻めを徹底し、空振り三振を奪った。ところが、2回無死一塁で、シリーズ初スタメンの5番・栗原に痛恨の先制2ランを浴びた。

 この場面を振り返る。巨人バッテリーは初球から内角へのスライダーを3球続けた。2ボールとなり、3球目が甘く入った。裏をかく意図もあっただろうが、同じ球種を続けるとやはり打者の目は慣れる。さらに栗原は内角に強いデータもあり、不用意に見えた。

 大城は第3戦でも同じような攻め方をして、先制2ランを浴びた。3回2死二塁。サンチェスとのバッテリーで中村晃を2球で追い込むと、ここからスプリットを3球続けた。2球ボールが続き、3球目が甘く入った。落ちる球で三振を狙いにいったが、カウントが悪くなり、ストライクを欲しがった。同じ球種を3球続けたのは、やはり不用意。第4戦で先発マスクをかぶることはなかった。

 一方、甲斐はどうだったか。第1戦の千賀とのバッテリー。巨人打線は「お化け」と呼ばれる落差の大きいフォークに対し、徹底して手を出さなかった。すると、150キロ後半の直球で押し込んだ。さらに、4番の岡本には徹底した内角攻め。2戦目以降の岡本は外角球への踏み込みが浅くなった。完全に打撃を狂わせた。13打数1安打、打率・077、0本塁打、0打点。甲斐に屈した本塁打、打点のセ・リーグ2冠王は「力足らず。僕がもっと打てば勝つことができた」と言った。

 今回のシリーズではソフトバンクと巨人の力の差、さらにはパとセの力の差がクローズアップされたが、それ以上に「捕手の差」が明暗を分けたと感じている。菅野とサンチェスなら勝算はあった。紙一重の試合だったが、いずれも先制被弾が大きく響いた。そして、強力打線は甲斐のリードに封じ込まれた。原監督も「攻撃型のチームという中で攻撃がなかなか機能しなかった」と語っている。

 長いシーズンなら目立たないが、短期決戦では捕手の重要性は増す。ちょっとした制球ミス、配球ミスが命取りとなる。絶対的捕手だった阿部(現2軍監督)はもういない。「打てる捕手」の後継者でもある大城が、この苦い経験を糧に成長するしかない。(記者コラム・飯塚 荒太)

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2020年12月7日のニュース