【内田雅也の追球】「もう1試合やろうぜ」――野球日和の阪神“試験試合”で欠けた「楽しむ」姿勢

[ 2020年6月8日 08:30 ]

練習試合   阪神2―1ソフトバンク ( 2020年6月7日    甲子園 )

<練習試合 神・ソ>グラウンドキーパーのまく水で虹が現れる野球日和の甲子園(撮影・北條 貴史)
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 映画『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年公開)で現代のアイオワに舞い降りた“シューレス”ジョー・ジャクスンは農場主レイ・キンセラを打撃投手に次々快打し、夜空を見上げて尋ねる。「照明か?」

 1919年ワールドシリーズでの八百長事件で永久追放となったジャクスンはナイターを知らない。レイは「今やリグリー球場にも照明がある」と嘆くように答える。

 カブスの本拠地、シカゴのリグリー・フィールドは1914年開場から88年までナイター照明がなかった。球団オーナー、フィリップ・K・リグリーの「野球は太陽の下でやるものだ」という言葉がファンの共感を得ていた。

 50―60年代に活躍し、「ミスター・カブス」と呼ばれたアーニー・バンクスの名言がある。「太陽が輝く最高の野球日和だ。2試合やろうぜ!」

 元はロッカーで選手たちを鼓舞する言葉だった。新聞記者が伝え、彼の代名詞となった。好天にわくわくする気持ちが伝わってくる。

 7日の甲子園はそんな野球日和だった。太陽輝く青い空、そよぐ風の日曜のデーゲームである。

 3人の外国人打者やベテランを休ませ、監督・矢野燿大が言う「若手主体」で臨んだ試合だった。北條史也の快弾快打、坂本誠志郎の好配球に好送球、守屋功輝の快投と見どころはあった。

 一方で、4番に入った大山悠輔が6回裏1死三塁の好機にボール球を続けて空振りしての三振や見逃し三振。荒木郁也や江越大賀の送りバント失敗。谷川昌希、高野圭佑、小川一平の四球など「若手」にどこかはつらつさが欠けていた。不完全燃焼と言えばいいだろうか。

 19日開幕に向け、1軍枠生き残りをかけた試験試合の側面もある。恐らく彼らは結果を求め、萎縮していたのだろう。それほどの厳しい競争社会である。

 だが、5月28日付当欄で書いたように「少年」の心、楽しむことが好結果を生む。コロナ禍に沈むなか「野球がやれる幸せ、楽しさをいかに出していけるか」と矢野は問いかける。楽しむ姿勢はファンを元気づけるだけでなく、自分のためだ。

 映画でジャクスンは「金はどうでもよかった」と言う。彼の成績を見れば、八百長など行ってはいない。「仕事でなく、ただ、野球がしたかった」と語るのは実話に基づいている。

 開幕前、甲子園での練習試合はこの日が最後だった。阪神が次に甲子園に戻ってくるのは開幕後の7月7日。1カ月間はロードに出る。

 ならば、甲子園もわかってくれるだろう。試合終了は午後5時すぎだった。夕暮れ時からナイターができるじゃないか。バンクスのように「もう1試合やろうぜ!」という気概がほしい。=敬称略=(編集委員)

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