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非効率的な磯釣り…メジナに40年!

[ 2020年6月7日 07:55 ]

潮を読んで釣った35センチのメジナ。AIは潮を読むことは不可能だ。       
Photo By スポニチ

【釣りと哲学】釣りを深~く考える「釣りと哲学」を。磯釣りは非効率的だ。肝心のメジナは姿を隠し、邪魔な小魚ばかり現れる。大風や大波、凹凸の激しい岩場が釣り人の前に立ちはだかる。それゆえ、人は攻略する意味を見いだす。 (スポニチAPC・恩田 誠)

 私の場合、磯釣りの対象魚はメジナのみで他の魚に関心はない。

 仕掛けは小さなウキが付いただけのフカセ釣りスタイル。これで40年ほどメジナを狙い続け、飽きるどころか情熱は増大中だ。

 磯釣りは漁ではないので釣った魚は食べない。釣り上げるまでの過程に価値や意味を見いだしている。

 単にメジナを得ることが目的ならもっと効率の良い釣法はいくらでもある。

 磯釣りは他の釣り方に比べて全く非効率的だ。足場は悪いし、岩場は凹凸が激しいので波や潮の流れは不安定だ。風や波で糸は翻弄(ほんろう)され仕掛けの流れ方は一定しない。しかも、同じ条件に出合うことは二度とない。

 そもそもメジナが釣り座近くにいるのかすら不明なのでコマセ(寄せ餌)を使うのだが、神経質なメジナより邪魔な小魚が多く集まってしまう場合の方がはるかに多い。

 首尾よくメジナを掛けても、魚は岩の隙間に隠れようとするので細い糸は容易に切れる。といって、太い糸を使えば食ってくれない。

 疲れても座って釣ることはできない。横着するとすぐに糸は岩や付着した貝に絡み、ウキごと仕掛けを失うことになりかねない。

 困難が多いだけにメジナを釣り上げた時の喜びは大きい。釣った!という達成感が意義のある体験となる。

 磯釣りでは潮の動きを読むことが必須の課題だ。この潮読みはAIには不可能だ。解析可能なデータが絶対的に足りないからだ。が、釣り人はデータが限定的であっても潮の動きを読まねばならない。実際、名手と言われる人ほど潮の見極めが丹念にできる。それは能力の問題ではなく、潮読みが釣り人にとって重要な「価値領域」にあることを意識しているからなのだ。

 人は価値を見いだした事柄についての情報は急に目に入るようになる。それまで情報は存在しなかったのではなく、自らの「価値領域」になかったので目に留まらなかっただけなのだ。

 潮読みが意義ある場に存在すると考え、つぶさに観察するようになれば、潮のわずかな変化すら気付くようになる。

 糸の操作もタナの設定もコマセのまき方もやり取りも、多くを自らの「価値領域」に加え、より大きな意義の場をつくることで、大きな困難を乗り超える糸口は必ず生まれてくる。

 それでも人は全能ではないので、時には決断が必要になる。ウキやタナを替える、コマセをまく位置や攻めるポイントを替えるといった決断も重要だ。

 その一方、何の苦労も努力もしない隣人が、大型メジナを釣り上げることがある。そうした偶然が生じることも磯釣りでは往々にしてある。だから、磯釣りはやめられない!

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