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タナゴ2・5センチも面白さメーター級 まさに小さなビッグフィッシュ

[ 2024年2月14日 04:30 ]

アメリカからきた釣り人ジャックに、タナゴ釣りを教える三平(C)矢口高雄/講談社
Photo By 提供写真

 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】釣り漫画の名作で故矢口高雄氏の「釣りキチ三平」誕生から50年。作品ゆかりの釣り場や対象魚に迫るルポ連載は“冬の風物詩”タナゴ釣りに挑戦した。釣りの対象魚としては世界最小ともいわれるが、その面白さはメーター級だった?(岩田 浩史)


 タナゴ釣りは日本人の国民性が最も表れた“ミクロの釣り”。たった数センチの魚を短い竿に細い糸、極小のハリで狙う。三平が大魚狙いの外国人釣り師に「小さなビッグゲーム」と紹介していたのが印象深い。魚体は小さくとも、か細い仕掛けで楽しむファイトは、竿をきしませ糸を切らんばかりに暴れまくる大魚とのやりとりに匹敵するとの意味だった。

 関東はY池での挑戦初日は、夕方からの始動。釣り人は記者一人。この時季の魚の動きは繊細だ。思ったよりウキは動いたが、合わせのタイミングがつかめない。初日は痛恨のオデコで終わった。

 2日目は昼過ぎに到着。先着の6人の間に座った。相変わらずウキの動きは繊細だが、早々に合わせに成功!目当てのタナゴではなく5センチのクチボソでもオデコ回避はうれしいものだ。そんな余裕からか、帰り支度をするT氏に声を掛けた。

 「タナゴ狙い?これじゃ釣れないよ」。仕掛けを見たT氏に餌からハリからウキから全てダメ出しされた。「ハリが大きいね」。え?5ミリほどのこのハリが?「ハリ先が長い」。T氏のハリと長さは変わらないが、最終カーブからハリ先までの長さが倍は違った。いや、その差は1ミリないのだが…。「それじゃタナゴの小さな口に刺さらない」。なるほど想像以上に繊細だ。T氏は同じハリをくれた。

 ウキも「その大きさじゃ浮力に魚が負けて当たりが取れない。これくらいがいい」と見せてくれたのは、中通し式の1センチウキ。単純比較は難しいが、記者のウキのボディーは2ミリ長く、1ミリ太かった。だが数字以上に大きく見えてしまう。ミリという単位をここまで大きく感じることがあっただろうか。「ごめんね。ウキは予備がなくて」。いえいえ謝らないでください。なんて良い人なんですか。

 そんなやりとりに入ってくれたのがI氏。「板オモリある?」と記者の板オモリをちぎりハリスに巻き付けた。何度か池に打ち込み、ウキの頭が水面の少し下に来る位置に調整した。「これなら当たりが分かるかも」。I氏は記者のウキの浮力を板オモリで相殺し、繊細な当たりに反応するようバランスを取ってくれたようだ。市販の仕掛けも、ネットで蓄えた知識も、場所と時季が違えば通用しないと痛感した。

 2人が見守る中、餌の付け方からタナ取り、ポイントへの打ち込み、当たりの特徴など指導を受けること約20分。わずかに沈むウキに合わせ竿を上げると、かすかに竿を引く感触があった。来た!恐る恐る引き上げると4センチのタナゴ。メスだという。常連たちが「初タナゴ?おめでとうございます。うれしいもんでしょ」と祝福してくれた。I氏は「オレも1匹目は忘れない。奇麗なバラタナゴのオスだった」と懐かしそうに話した。

 午後4時を過ぎると寒さが身に染みる。「夕方は活性が上がるから釣れるかも。頑張って」。温かいアドバイスとともに常連たちは消えていった。日が落ち、ウキが見えなくなるまで粘った釣果はタナゴ3匹(他クチボソ3匹、ヨシノボリ1匹)。バラタナゴのオスらしき1匹は、緑がかった魚体は確かに美しかった。どれも指先に余裕で乗る小ささだった。

 「釣りキチの夢は大物を釣るか、数を出すか」とは三平の言葉で、釣った魚は大きいほど気分が良いが、タナゴ釣りは例外だ。小さな動きに目を凝らし、繊細な竿さばきで手繰り寄せた今回最小の2・5センチは、まさに「小さなビッグフィッシュ」だった。

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