羽生九段 “天敵”永瀬王座破り無傷5連勝 首位独走!藤井王将挑戦権まで「マジック1」

[ 2022年11月1日 04:50 ]

<第72期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ> 勝利し、感想戦をする羽生善治九段 (撮影・光山 貴大)
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)挑戦者決定リーグは31日、東京都渋谷区の将棋会館で1局を行い、後手の羽生善治九段(52)が永瀬拓矢王座(30)を94手で下した。羽生はこれで開幕以来無傷の5連勝で首位を独走。第65期以来、7期ぶりの7番勝負出場に「マジック1」とした。

 羽生の82手目△3七金。相手王のこめかみに打ち込んだ駒がマス目からややはみ出すほどの強打だ。位置を修正する間、永世7冠の右手指がかすかに震える。あまたのライバルたちを震え上がらせた戦慄(せんりつ)の生理現象。永瀬はその12手後、全てを悟ったかのように頭を下げた。

 後手番とは思えないほど、序盤から積極的に仕掛けた。角替わり腰掛け銀のオーソドックスな進行に50手目△7五歩とくさびを入れる。「ちょっとやってみたかった」。つまり用意していた作戦だ。昼休み前から激しい戦いとなり、AIも形勢判断に悩む混戦を経て、永瀬の81手目▲3三歩に対抗したカウンターが勝負の分かれ目だった。

 「皆目予想のつかない感じで難しいかと。なにかちょっと足りないと自信のない展開でした」

 最終盤は自王の詰み筋を丁寧に消しつつ永瀬王を挟撃し、受けの1手△2二歩(90手目)で「意外と良くなった」と勝利を確信した。
 実は永瀬には相性が悪い。この日の対局前までなんと4勝12敗。しかも蛇ににらまれたカエルのように5連敗中だった。今局も劣勢がささやかれたが、終わってみれば全盛期に近い指し回し。「序盤の構想がどうだったか。もしかして作戦としてよくなかったかも」と反省を口にしたにもかかわらず…。

 まさに破竹のリーグ5連勝でプレーオフ以上確定。1敗で追走する豊島将之九段(32)が11日か15日に敗れた時点で藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=への挑戦権を得る。「(5連勝は)自分でも予想できなかったこと。ただ次の対局に全力を尽くしたい」。レジェンドの静かな決意がハロウィーンの夜に溶け込んでいった。(我満 晴朗)

 ≪「常に苦しい」永瀬王座2敗に≫2勝2敗に後退した永瀬は終局後、「常に苦しいと思った。形勢判断が難しい将棋だった」と振り返った。互角で突入した終盤、長考を重ねて攻め合い、形勢を損ねた選択を悔いた。受け将棋の棋風で知られるが、羽生の88手目[後]3二歩に「自分の中に類型がなかった。素晴らしい手を指されたのでは」。痛恨の黒星にも新感覚を吸収しようと試み、残り2局、リーグ残留も陥落もありうるだけに気持ちを締め直した。

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