【内田雅也の追球】なぜ、村上は打たれないのか。説明困難な「伸び」「切れ」

[ 2023年4月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7-0ヤクルト ( 2023年4月29日    神宮 )

<ヤ・神>連続無失点を続けた阪神・村上(撮影・北條 貴史)
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 先に9回裏について書く。7―0とすでに大勢は決し、阪神は2番手の加治屋蓮が登板していた。内野安打の無死一塁。一塁手・大山悠輔はベースに付いていなかった。一塁走者・山崎晃大朗は二塁を陥れた。「守備側無関心」で盗塁を記録しないプレーだとみていたが、公式記録は「盗塁」だった。

 ゼロ行進で連敗が長引き、最後に一矢(1点)を――というヤクルトの姿勢が見える。この無死二塁を3者連続三振、無失点で切り抜けた加治屋の投球には意味がある。相手の明日へつなげようとする1点を阻止したのだ。最後は村上宗隆三振で試合終了だった。

 阪神はこれで3試合連続の零封で3連勝。立役者はむろん、先発の村上頌樹である。8回2安打零封で今季開幕から25回連続無失点、規定投球回数にも達し、防御率0・00で堂々1位である。

 なぜ、村上は打たれないのか。前回登板で完封した際、ドラフト指名決断は当日朝だったという話が本紙に載った。当時監督の矢野燿大(本紙評論家)が動画などを見て「どうしても欲しい」と球団に頼み、当日午前中に東洋大に調査書を提出した。5位での指名となった。

 矢野は「自分がリードしてみたい投手」と評価していた。「伸びのある、いい真っすぐが来ていた。制球がよく、落ちる球にも切れがあった」

 ただ、この「伸び」や「切れ」を具体的に説明するのは難しい。野球人独特の感覚である。球速や回転数や回転軸……などで数値化できるものだろうか。投球内容をデータで表せるだろうか。

 映画『人生の特等席』(2012年)はデータ全盛の野球界に疑問を投げかけている。主人公はタカの目を持つ大リーグ・ブレーブスの老スカウト(クリント・イーストウッド)。パソコンを使えと言う球団幹部に「コンピューター? 野球を知らないやつの使いものだ」、選手の勘や心を「コンピューターが読めるのか」と言い放つ。

 何もデータ野球を否定するわけではない。ただ村上の平均145キロの直球が「見た目以上に球威がある」(矢野)のはなぜなのか。1メートル75とさほど上背のない右腕には角度とは別の持ち味もあるはずだ。打者が球の出どころが見えづらい「スニーキー」なフォームなのか。簡単には説明できないこと自体が好投を生む要因なのだろう。=敬称略=(編集委員)

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