【内田雅也の追球】「自制心」見えた選球 今春の佐藤輝にまだ快打や一発は見られないが、変身の予感はある

[ 2023年3月6日 08:00 ]

オープン戦   阪神2ー7オリックス ( 2023年3月5日    甲子園 )

<神・オ>2回、四球を選ぶ佐藤輝(投手・田嶋) (撮影・北條 貴史)
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 阪神・佐藤輝明の2打席連続の四球(2、4回裏)は内容があった。いずれも0ボール―2ストライクと2球で追い込まれながら、際どい球を見極め、ファウルで粘って一塁に歩いたのだ。ともに回の先頭として出塁の役割を果たしていた。

 特に2回裏はカウント2―2から左腕・田嶋大樹の外角低めの際どいカッターに続けてバットが止まった。打者は通常、2―2からは見送れるが3―2になると手が出てしまうものだ。木戸克彦がよく話していた「フルカウントは振るカウント」である。田嶋―森友哉のバッテリーもこの習性を突く配球をしたのだが、佐藤輝はわなにはまらなかった。スコアシートに赤ペンで印をつけた。

 4日・オリックス戦での四球もフルカウントからのひざ元スライダーをも選んだもので、同じく赤い印をつけていた。
 2ストライク後の「決め球」を巡る攻防は投打の死命を決する。この日の阪神先発・大竹耕太郎は2回表、2ストライクと追い込んでから2安打を浴び、2四球を与えていた。誘い球を見極められて苦しくなった。結果4失点となった。

 佐藤輝にとって選球や四球は一つのテーマだ。選球眼の指標に「BB/K」がある。四球数を三振数で割った数値である。三振より四球が多い打者は「1」を超えることになるが、数えるほどしかいない。昨年のセ・リーグの最高は宮崎敏郎(DeNA)の1・26(44四球、35三振)だった。

 佐藤輝は1年目の一昨年が25四球、173三振で0・14。昨年は改善したとはいえ51四球、137三振で0・37でしかなかった。今の姿勢なら今年、数値は大幅に改善されるのではないか。

 実はキャンプ中から佐藤輝の変身をみていた。打席での落ち着きと言えばいいだろうか。悪球に手を出すことが少なくなってきていた。

 「BB/K」で表されるような、ボール球に手を出さず、ファウルで粘る姿勢は一般に「打席自制心」と呼ばれる。佐藤輝が変わろうとしているのは、この「自制心」ではないだろうか。焦りやいら立ちを抑え、強引さを戒める心である。

 もちろん積極果敢さを失ってはいけない。ただし「好球必打」には「自制心」も含めた、落ち着いた心がいる。今春の佐藤輝にまだ快打や一発は見られないが、変身の予感はある。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月6日のニュース