阪神・岡田監督の“勝負に敗れたら監督の責任” 久保田に響いた信念

[ 2022年10月25日 07:00 ]

05年9月7日の中日戦、就任後初めてのマウンドに向かった岡田監督(左)の言葉が久保田の心に響いた
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 【連載・岡田の考え(8)】甲子園での秋季練習初日。岡田彰布は野手組のノック、打撃練習が始まる前にブルペンに足を運んだ。侍ジャパンに初招集された湯浅京己の投球を見た。横には1軍投手コーチに決まった久保田智之が立っていた。「どっちが上や」という岡田の質問に「真っすぐは(自分より)湯浅ですね」と久保田が答えた。監督と抑えとして名勝負を演じた2人が、ともに指導者としてブルペン強化にあたる。

 05年9月7日の中日戦(ナゴヤドーム)。5月から首位に立った阪神を落合博満が率いる中日が猛追。首位攻防のナゴヤドーム2連戦だった。阪神は1戦目をエース井川慶でモノにすることができず、2ゲーム差に詰められていた。阪神は4回、金本知憲が川上憲伸から先制弾。リリーフで登板した藤川球児が7回に谷繁元信に同点打を浴びたが、8回に鳥谷敬の適時二塁打、9回に関本健太郎(現賢太郎)の適時打で3―1とリードした。だが、この時、本塁を続けて狙った二塁走者・中村豊は微妙なタイミングで憤死。これが伏線となった。

 9回裏、抑えの久保田が無死二、三塁のピンチを招くと、谷繁の二ゴロで三走・アレックスが本塁突入。微妙なタイミングだが、判定はセーフ。捕手の矢野輝弘(現燿大)が激しく抗議。岡田監督もベンチを飛び出し、審判に詰め寄る。間に入った平田勝男ヘッドコーチが退場処分になり、指揮官の怒りは頂点に達した。選手に「ベンチに戻ってこい」と指示。球場は騒然となった。リクエスト制度もないから収拾はつかない。牧田俊洋球団社長の懸命の説得で18分後、試合は再開されたが、犠飛で同点を許し、なおも1死満塁と絶体絶命。その時、初めてマウンドへ向かった岡田監督が言い放った。

 「打たれろ!むちゃくちゃやったれ!!俺が責任を取る。負けてもいい。思いきっていけ」

 気合の入った言葉が久保田の心に響いた。2者連続三振でピンチを脱出。試合は延長11回、中村豊の本塁打で決まった。落合監督は「きょうは監督の差で負けた。以上」とだけコメント。総力戦で危機を乗り越えた阪神は9月29日、2年ぶりのリーグ制覇を甲子園で決めた。

 「監督の言葉で気持ちが固まった。負けたくない気持ちだけで投げた」と久保田は当時を振り返っていた。勝負に敗れたら、それは監督の責任。熱い思いを抱く「岡田の考え」を湯浅、岩崎優、浜地真澄らブルペンに伝えていくことが新たな使命。新スタッフの挑戦も始まった。=敬称略=(鈴木 光)

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2022年10月25日のニュース