陸前高田で12年越しのプロ野球公式戦が実現 「奇跡の一本松球場」でイースタンL楽天VS巨人

[ 2022年6月5日 05:30 ]

試合前、東日本大震災の犠牲者に黙とうが捧げられる(撮影・沢田 明徳)
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 12年越しの悲願がかなった。11年の東日本大震災による津波で消失し、再建された岩手県陸前高田市の「楽天イーグルス奇跡の一本松球場」(高田松原球場)で4日、イースタン・リーグの楽天―巨人戦が行われた。同球場でのプロ野球公式戦は初めて。3119人が詰めかけ、プロのプレーを堪能した。

 観客の拍手には、11年分の思いが詰まっていた。震災とコロナで2度の中止を経て、ようやく開催された陸前高田市でのプロ野球公式戦。近隣の市内の住民らが詰めかけ、外野の芝生席まで埋まった。

 震災後、球場の再建に建設部長兼都市計画課長として携わった阿部勝氏(62)は「頑張ってよかった。こうやって再建して、楽しんでもらって感無量です」と感慨に浸った。

 より沿岸にあったかつての球場では、11年夏に楽天の2軍戦が予定されていた。だが3月11日の東日本大震災の津波で球場は壊滅状態となり、試合もなくなった。20年8月に新球場が完成し、同年にこけら落としが予定されていたが、今度はコロナ禍で実現せず。津波で流された住宅地に建てられた球場でようやく第一歩となる2軍戦開催。阿部氏は「被災した方々にも協力していただいた」と感謝するばかりだった。

 楽天は惜しくも敗れたが、6回に適時打を放った田中貴は「観客の皆さんは一生に一度の観戦になるかもしれない」と特別な思いを持って臨んだ。巨人の先発は地元・岩手出身の3年目・堀田。両親もスタンドに駆け付ける中、5回1/3を1失点で8奪三振。「いろいろな思いを感じながら投球した。1軍で活躍している姿を見せることが一番」と特別なマウンドで気持ちを新たにした。

 地元の子供たちも目を輝かせた。ロッテ・佐々木朗が所属した少年野球チーム・高田野球スポーツ少年団の菅野樹良(じゅら)さん(11)は「スイングスピードも、投げるのも速い」と初めてのプロ野球観戦を楽しんだ。

 試合終了後にはグラウンドが開放され、直前までプロ野球選手がいた場所で、子供たちがキャッチボールなどで楽しんだ。まだ道半ばの復興。それでも野球が、ひとつの「奇跡の一日」となったはずだ。(田中 健人)

 ≪楽天選手サイン入りパネルを陸前高田市に贈呈≫試合前には楽天の米田陽介球団社長から選手のサイン入りパネルが陸前高田市の戸羽太市長に贈呈された。同市長は「イーグルスさんには大変お世話になってきた。本当に待望の試合。市民にとっては11年の思いが実現した」と笑顔。米田社長は「今日の陸前高田、明日(5日)の南三陸と、この2試合は特別な思いがある」と言葉に力を込めた。

 ▼楽天・石井監督 ファームが(被災地に)行ってくれることは東北のチームとして凄く重要。1軍も(21、22日に)秋田、盛岡で試合をするし、東北にプロ野球チームがあることをもう一度、意識してもらえればいい。

 ▽奇跡の一本松 広田湾に面した旧高田松原の跡地に残る松の木。高田松原は国の名勝にも指定され、350年にわたって約7万本の松の木が植林されていたが、東日本大震災の津波で壊滅。その中で、西端にあったこの一本が立ったままの状態で残った。震災復興のシンボルとして周辺を含めた保存整備が進められている。

 ▽高田松原第一球場 20年8月に完成。楽天と陸前高田市が17年3月に結んだスポーツ交流活動のパートナー協定の一環として、愛称を「楽天イーグルス奇跡の一本松球場」とした。両翼99メートル、中堅122メートル。収容人数は約4500人。

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