【内田雅也の追球】「弱さ」を認めてこその大人――阪神恒例のオーナー報告会

[ 2019年10月19日 08:00 ]

オーナー報告を終え取材に熱く答える矢野監督(撮影・後藤 正志)
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 阪神オーナー(電鉄本社会長)・藤原崇起(たかおき)も、球団社長・揚塩健治も、来季に向け「優勝」と口にした。

 たとえば藤原はこう言った。「来年は優勝するために努力してくださいとお願いしました」「ファンの皆さんには“いつ優勝するのや?”という話になりますが、勝つために頑張ってくれて、来年も楽しみにしていただいたら」

 18日にあった恒例の監督によるシーズン終了のオーナー報告会。大阪・野田の本社ロビーで語った。来季目標が「優勝」と当たり前のように話している。「優勝」を口にできる幸せを思う。

 長年、阪神取材にかかわった身とすれば、時代の変化を感じずにいられない。この節目のシーズン終了報告はオーナー以下、球団の監督に対する信頼度を計る意味合いが強かった。低迷期は毎年監督問題と背中合わせである。オーナーや球団首脳は「優勝」は禁句に近かった。

 目標を「優勝」とすれば、監督続投の条件となる。翌日、スポーツ各紙に――嫌な書き方だが――「○○監督にVの十字架」式の見出しが躍った。「優勝できなければクビ」という新聞辞令である。先方も承知のうえで「勝負は時の運もある。優勝争いできるように」と話したものだ。

 もちろん今季3位だったという結果もあるが、監督・矢野燿大は高く評価され、信頼されているのが分かる。

 ただ、優勝した巨人と最終6ゲーム差、勝ち星は8勝差あった。この差をどう感じるかがフロントの能力に通じる。

 揚塩はクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージでの戦いぶりを見たうえで「巨人との差は感じています」と話した。「それは長打力だけでなく、ここという時の細かい野球、足も絡めていた。外国人をはめたらそれでいいのかと簡単には思っていません」

 夢見るだけでは優勝はつかめない。彼我の差を冷静(あるいは冷徹)に見極めることが肝要となる。

 テレビドラマ『同期のサクラ』第2話(日本テレビ系・16日放送)で、入社2年目と若い主人公サクラが受け取った、故郷の祖父のファクスにあった。「大人になるとは 自分の弱さを認めることだ と思う 自信はないが」

 有島武郎の『小さき者へ』は、母親を亡くした子らに向け、父親として勇気づける手記として読める。

 <私は自分の弱さに力を感じ始めた。(中略)言葉を換えていえば、私は鋭敏に自分の魯鈍(ろどん)を見貫(みぬ)き、大胆に自分の小心を認め、労役して自分の無能力を体験した。私はこの力を以(もっ)て己(おのれ)を鞭(むちう)ち、他を生きる事が出来るように思う>。自身の弱さを認めることが力になるというわけだ。

 矢野も「今のタイガースは決して強くはない」と認めている。成長途上で、大人になろうとしている。そのためには「弱さ」を認めることだ。

 大リーグ・ヤンキース、マリナーズなどで監督を務めたルー・ピネラが語っていた。「自分の弱さを直視できるだけの強さがない者は、たくましい戦士になれない」

 自らの「弱さ」を認める大人の戦士として「優勝」に向かうのなら、本物である。=敬称略=(編集委員)

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