【内田雅也の追球】打順が打者を作る 阪神3番・前川に見た勝利と育成は両立

[ 2023年6月8日 08:00 ]

交流戦   阪神11―3楽天 ( 2023年6月7日    楽天モバイル )

<楽・神>初回、田中将(手前)から安打を放つ前川(撮影・岸 良祐)
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 「地位が人を作る」という。人はそれなりの地位に就くと、その地位にふさわしい人間に成長していく。責任感や自覚が強まるのだろう。

 前夜、半ば予告していたように、阪神監督・岡田彰布は打撃不振の3番打者シェルドン・ノイジーを先発メンバーから外した。代わって3番に起用したのは智弁学園から入団2年目、20歳の前川右京だった。コーチ陣との話し合いで「3番はオレが言うたんや」と岡田自らの抜てきだった。前夜、7番打者でプロ初安打を放ち、無安打の精神的重圧から解放された打撃に期待したのだ。

 8、9番から左が5人並ぶ懸念も楽天投手陣で左投手はクローザーの松井裕樹だけという点を突いて、迷いもなかった。

 岡田はかねて、打順について「7番にすると、7番打者のバッティングになる」と独特の表現をしていた。期待の打者であろうとも、その看板が「7番」だと「7番らしい」打撃になってしまうという意味である。

 期待の度合いが高ければ、ふさわしい打順がある。別の意味での分相応だろう。つまり、打順が打者を作るのである。

 もちろん、過大な期待で重荷になっては本人もチームも苦しい。かつて「パ・リーグのお荷物」と呼ばれた1962(昭和37)年の近鉄で土井正博が「18歳の4番」となった状況とは異なる。今の阪神は首位を快走し、貯金が20個近くあるという余裕が背景にある。

 あの掛布雅之でも高卒2年目まで5番はあっても3番はない。阪神では歴史的な抜てきだった。

 そして前川は3番らしい打撃を見せた。先発・田中将大から1回表1死一塁で中前打を放った。3回表1死二塁では二塁右へゴロの内野安打。後の佐藤輝明三塁打での3点先制につなげた。3番で打席に入ると、立ち居振る舞いまでも3番らしく見えてくるから不思議である。

 「地位が人を作る」に続けて野村克也は「環境が人を育てる」と語っていた。今の阪神は若手を育てる環境にある。

 いや、そんな現状以前に、岡田には勝利と育成は両立するという信念がある。<育てることと勝つことは同じこと>と著書『プロ野球構造改革論』(宝島社新書)にも記した。<育てるために勝つ、育てていれば勝つ、育てば勝つ>のである。

 前川だけではない。多くの若手を岡田は用兵で育成し、そして勝とうとしていた。=敬称略=(編集委員)

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