エイベックス・松浦会長が爆買いする理由 NFTアートにスーパーカー…疑問の声は承知の上、真意語った

[ 2022年2月3日 05:30 ]

腕を組み笑顔を見せるエイベックスの松浦会長(撮影・木村 揚輔)
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 エイベックスの松浦勝人会長(57)がデジタル資産の一種である「NFT」のアート作品2点を計1億円で購入し、話題になっている。億単位のスーパーカーやバイクも50台以上“爆買い”。私財での購入とはいえ、コロナ禍でエンタメ業界の苦境は続いており、疑問の声が噴出している。音楽界の風雲児はついに“ご乱心”あそばされたのか――。爆買いのワケを本人に聞いた。

 「NFTを1億円で買っちゃダメなの!?投機目的ならOKで、満足感だけで買っちゃダメなの?なんで」

 取材冒頭「世間のひんしゅくも爆買いしてますね」と言うと、松浦氏は笑い飛ばしながら畳み掛けてきた。「NFT」は日本語で非代替性トークンと呼ばれる電子的な証明書で、これを付与されたデジタルアートは鑑定書付きの絵画のように唯一の作品と証明されるため、希少な一点モノとして高額取引されるようになった。

 松浦氏が昨年末に約7000万円で買ったNFTアートは、VRゴーグルをつけた男の絵「クリプトパンクス」。現在自身のSNSのアイコンにしている。また、猿のイラスト「ボアードエイプヨットクラブ」も約3000万円で購入。スーパーカーやバイクも50台以上爆買いし、バブル時代を彷彿(ほうふつ)させる大金をつぎこんでいる。

 言わずと知れた風雲児。でも素顔は人見知りで、情に厚く、次代を素直に読む。NFTに懐疑的な人がいることも理解した上で「ゴッホの絵を買うのはいいのに、なぜNFTはダメなの」と本質を突く。例えば先のクリプトパンクス。2017年に登場した初のNFTアートとされ、その歴史的価値からクレジットカードのVisaが購入するなど名画のようにコレクションとして取引されている。

 「投機目的もあるけど、大前提はあの絵が気に入ったから。自分にとって意味あるものが欲しかった。それはこの先に見えているのが、メタバース(ネット上の3次元の仮想空間)の世界だから。VRをつけた男の絵は、僕が仮想空間で活動する上でイメージが重なったんだ」

 NFTアバターは、SNS上でユーザーが自分のアイデンティティーを表すために使う。ただ、松浦氏はNFTをあらゆるデジタル財産の未来と捉えており、その一つが「メタバースでの展開」。作品を展示するギャラリーや同じ嗜好(しこう)のマニアと交流するサロンなどアイデアはさまざまで、NFT購入者はアバターの商標権を得ていることからファッションアイテムなど派生商品の展開も可能だ。

 やみくもに買いあさったように見えるスーパーカーも、実は限定品ぞろい。「仮想空間には土地があり、ビルも建てば道もある。カッコ良くて希少な車は現実世界より利便性があり、価値は高まると思う。この前、日産のGTRが3DアートのNFTとのセットで2億5000万円で売れたんだ。そんなことが現実に起きている。NFTは所有者の記録が残るので、僕が最初に持っていたという証明は誰も知らない人より安心感があると思う。だから、買った車をYouTubeで公開しているんだ。別に自慢したいわけじゃない」

 欲しいのは、投機による成功ではない。仮想空間で生まれる熱狂の本質だ。「自分が買ったNFTだって、純粋に“欲しい”って気持ちがないと手を出せる金額じゃない。大事なのはそこでね。“好き”とか“欲しい”には圧倒的な熱量がある。その本質を理解することが僕らエンタメの世界では重要で。理屈だけでヒットは生まれない。そこに飛び込まないと。当然そこにはリスクはある。でもリスクがないと本質は理解できない」

 メタバースの時代に向け、大航海時代のような世界的な覇権争いは既に始まっている。日本は出遅れているのが現状だ。「政治家が理解してないし、危機感もない。どんな未来になるかは誰も断言できないけれど、船出せずに取り残される危機感を無視して生きられるほど、エンタメ業界は甘くない。だから今は少々の傷は負っても、メタバースの方向性を地道に捉えていく“自らの羅針盤”を手に入れたいんだ」

 全て自分のポケットマネーで始めたのも、それが理由だ。「失敗と痛みを、自分で負いながら体得することが大事で。批判の声も承知の上です。コロンブスがインドだと思ってアメリカ大陸を発見したように、正確な答えは導き出せなくても“自らの羅針盤”で正しい方向を捉えたい。自分はそうやって生きてきたから」

 初めて明かした爆買いの真意――。バイト先の貸しレコード屋をきっかけに身一つでエイベックスを設立し、わずか10年で業界トップにした伝説は「好きな音楽」を追究した結果のリアルな革命だ。そして今、新たに見据える仮想空間の世界で、実はリアルと変わらずに存在できるのが「音楽」だ。視覚や触覚とは違い、聴覚に響くものはリアルのままメタバースの世界へ飛び込める。「音」が仮想と現実をつなぐ最大のファクターになるかもしれない。

 「その読みは面白いね。確かに音楽は映画でもゲームでも、あらゆるコンテンツの根源だから。新型コロナはみんなを現実から仮想空間へ向かわせる大きな波になるかもしれない。アーティストのライブに世界中から何十万、何百万の人が押し寄せる時が来るかもしれない。そして世界中の人が同じ思いを抱いて立ち上がる時、そこにも音楽が必ずあると思うんだ。きっと音楽は作品という枠を超えていく。新たな革命を起こしたいね」。羅針盤が動き始めた――。

 ◆メタバース 利用者の分身(アバター)が集まる3次元仮想空間。VR(仮想現実)ゴーグルなどを使うことで、没入感の高いデジタル空間を楽しめる。五感全体に働きかける装着器具などの開発が進めば、ゲームだけでなく、世界中の人々との交流やビジネス、日常生活が一変する可能性がある。SNS大手のフェイスブックが昨年10月に社名を「メタ」に変更し、メタバースを中核事業にすると表明。世界的な開発競争が始まっている。

 ◇松浦 勝人(まつうら・まさと)1964年(昭39)10月1日生まれ、横浜市出身の57歳。日大在学中の85年、貸しレコード店「友&愛」で始めたアルバイトが原点。88年エイベックス・ディー・ディーを設立し、レコード輸入卸販売業を開始。90年に音楽レーベル「avex trax」設立。小室哲哉をプロデューサーに迎え、TRF、globeらでヒット曲を連発。自らもプロデューサーとして、浜崎あゆみ、ELTらをスターにした。

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