安堵、そして称賛 球宴7度選出左腕 レ軍吉田の「パワーは本物」

[ 2023年3月4日 08:00 ]

ライブBPで左腕セールと対戦したレッドソックス・吉田(撮影・杉浦大介通信員)
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 ヒヤッとさせられたのはオールスター選出7度、通算114勝の大型左腕クリス・セールと対戦したライブBP(試合形式の打撃練習)の第1打席だった。

 3月1日、吉田正尚外野手(29)がWBCに備えて帰国する前の最後のレッドソックスでの練習で、セールが投じた90マイル(約145キロ)の速球が右太腿に当たった。その瞬間、右足を何度か上げて飛び跳ねるようなしぐさを見せた吉田。ちょうどこの前日、左脇腹を負傷したカブス・鈴木誠也外野手のWBC出場辞退が発表されていたこともあって、ネット裏で練習を見ていた私たちも肝を冷やした。

 もしも、当たりどころがもう少し悪かったら…。改めてセール対吉田の映像を見直しても、少し恐ろしくなる。しかし、吉田はこの死球の後も問題なく打席に立ち続け、第2打席ではセールの90マイルの速球を綺麗に左翼にはじき返す場面もあった。結局、この日は左腕エースと3打席にわたって対戦し、2打数1安打1死球。独特の投球フォームのセールを「手足も長さもありますし、向かってくる感じ」と評した吉田だったが、さすがの適応能力を見せつけた。

 「オーマイガーッ!彼に申し訳ないことをしてしまったよ」

 ライブBPを終えた後、クラブハウスでセールを呼び止めると、さすがに済まなそうな表情だった。日本人選手たちのWBCへの強い思いは今では多くのメジャーリーガーが理解しているだけに、無事で済んだことで安堵(あんど)したのはセールも同じだったはずだ。練習後のメディア対応時には吉田が元気に笑っていたと伝えると、改めて安心したのか、今度はセールの口から背番号7の打撃への称賛があふれるように飛び出してきた。

 「素晴らしい打者だね。聞いていた通り、ストライクゾーンをしっかりと理解している。ゾーンからわずかに外れるボールを何球か投げたら、振ってこなかった。そこでゾーンの中に投げると、今度は痛打されてしまった。なかなか三振はしないだろうし、打球を遠くに飛ばす力も備えている。間違いなく打線の起爆剤になってくれる選手だよ」

 絶賛の背後には日本メディアである私への気遣いも多少はあったとして、それだけではなかったはずだ。実際に今キャンプを通じて吉田は確かな技術とパワーを披露し続けており、似たような形で高評価していたのはセールだけではなかった。今季のレッドソックスの前評判は高くはないが、日本出身の新戦力はファン、関係者に希望を与える存在になっているのは紛れもない事実だろう。

 「吉田は大柄ではないかもしれないが、パワーは本物だ。僕はベッツ(現ドジャース)とも一緒にプレーしたし、アルテューベ、ブレグマン(ともにアストロズ)とか小柄でも強打の選手たちは他にもたくさんいる。吉田のように技術と規律を持った選手だったら、メジャーリーグでも活躍できる。僕もエキサイトしているよ」

 右肘のじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)から完全復活を目指すセールのこの興奮ぶりはおそらく本物。死球から始まった吉田との初対戦で思うところはあったのだろう。左腕エースが名前を挙げたベッツ、アルテューベのように吉田が活躍できれば、チームの投手陣にとっても大きな助けになる。その時には、昨季の地区最下位から浮上を目指すレッドソックスの今季も、より面白くなることは間違いない。(杉浦大介通信員)

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2023年3月4日のニュース