【内田雅也の追球】地道な「ドリル」が生む「完成形」 中野と小幡で4秒切りの併殺

[ 2023年2月10日 08:00 ]

シート打撃の最後で島田を併殺に仕留めた中野(左)と小幡(撮影・岸 良祐)
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 阪神シート打撃の最後の打者、無死一塁で島田海吏のゴロが二塁前に転がったとき、併殺は無理だなと直感した。確かに正面の強めの当たりだったが、島田は俊足である。プロ通算480打席で併殺打は3本だけだ。

 ところが、内野陣は見事に4―6―3併殺を完成させた。二塁手・中野拓夢のゴロ処理から反転しての送球は素早く、遊撃手・小幡竜平の転送は強肩で矢のようで、一塁手・大山悠輔が伸びて捕り、間一髪で仕留めた。

 手もとのストップウオッチ計測で島田インパクトから大山捕球まで3秒82!4秒をメドにしていた監督・岡田彰布も満足いく併殺のはずだ。阪神は昨年まで5年連続で12球団最多失策。併殺崩れで残した走者が失点につながったことがいくらもあった。

 昨年秋に就任以来、守備力強化を念頭に置いていた岡田としては4秒切りの併殺は一つの目指す形、完成形だろう。

 案の定、定例の囲み会見でも「内野手に関しては去年11月(秋季キャンプ)から上達してると思う」とたたえていた。シート打撃という実戦形式の練習を2度(7、9日)行い、打者のべ64人を無失策できている。まだキャンプ序盤だが、着実に上達を感じている。

 「11月から基本的なことをずーっと繰り返してやってきた。オフに自分らでやってきて、このキャンプにきている。守備は基礎、基本動作の反復練習なんよ」

 岡田の言う通り、守備の上達に近道などない。この日から臨時コーチとして指導を始めたOBの鳥谷敬(野球評論家)も基本動作から入った。全体練習終了後、サブグラウンドで中野、小幡、木浪聖也に行ったノック(ノッカーは内野守備走塁コーチ・藤本敦士)はマウンド付近、短い距離からの緩いゴロだった。鳥谷は打球へのアプローチや目線を教えていた。大リーグで大切にする「ドリル」のようだった。

 同じように、大リーグの投手指導で「5~7割の力での投球練習」がある。「速いボールは遅いボールを速めたものと同じ」との定説がある=マイク・スタドラー『一球の心理学』(ダイヤモンド社)=。脱力でも全力でもボールを離す位置や角度は同じで、フォーム形成に通じるそうだ。

 内野守備も、速いゴロは緩いゴロを速めたものと同じなのだろう。この地味で地道な練習の先に完成形はある、と信じている。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月10日のニュース