近藤一樹と坂口智隆 最後の近鉄戦士2人を結んだ知られざる絆のエピソード

[ 2022年10月18日 12:02 ]

10月3日の引退試合に、花束を持って訪れた近藤一樹氏(左)と坂口
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 「最後の近鉄戦士」と呼ばれたヤクルト・坂口智隆外野手(38)が、今季限りで現役を引退し、ついに近鉄戦士がNPBプレーヤーから姿を消した。時代の流れを悲しむファンも多いが、まだ投手として投げている近鉄戦士がいる。四国アイランドリーグplus・香川で兼任コーチとして活躍する近藤一樹投手(39)だ。今季は13試合に登板し、なんと無失点の防御率「0・00」。来季に向けた注目の去就についてインタビューしつつ、坂口や近鉄の思い出も語ってもらった。

 近藤がプロ初勝利を挙げたのは近鉄時代。04年9月20日のオリックス戦だった。

 「すごく覚えていますよ。何で覚えているか、といえば“すごく濃かった”んです」

 18年前を懐かしむ表情で振り返ってくれた。それは、初勝利の数日前からさかのぼる。この年、プロ野球界は1リーグ制をにらんだ再編問題に揺れていた。当時の古田選手会長が、球団側と話し合いの場を持ったのが9月9、10日。しかし、近鉄とオリックスの合併への動きは止まることなく、選手会は泣く泣く同16、17日にストライキを敢行する。「プロ野球が止まった日」。そんな歴史的な日だった。

 プロ3年目の近藤は、実は当初はストライキ中に開催されるはずだった試合での先発が決まっていた。「札幌で初先発の予定だったんです。それまで中継ぎで10試合無失点で抑えていたので“先発行くか”って話になって。でも流れてしまったんです」。しかし、運命は流れていなかった。ストライキ明けに先発予定だった岩隈が体調不良で突然の登板回避。再び「行くか」という声が掛かった。結局、試合は14―2と味方の大量援護もあり、5回2失点の近藤は役割を果たしてプロ初勝利を挙げた。「初先発で、初勝利で、1軍初失点もあって。色々詰まっている試合」。今となっては歴史的な近鉄の勝利球は、実家で大切に保管されているという。

 そんな当時、大阪・藤井寺の選手寮で一緒に1軍生活を夢見ていたのが、1つ後輩の坂口だった。なんと坂口とは「1軍デビューの日が一緒なんです」と教えてくれた。2003年10月7日のオリックス戦。坂口は初先発。近藤はリリーフで3回無失点。すごく縁のある2人だ。その後、再編騒動を経て、分配ドラフトで共にオリックス入り。一緒に歩んできた“戦友”だった。

 坂口の引退試合となった10月3日。前日に、ヤクルト球団から「花束贈呈役」として誘われた近藤は一度、スーツを取りに香川の家に戻るなどバタバタの中で東京に向かった。しかし、そんなバタバタも心地よかった。「そもそもプライベートで行こうかな、と思っていたんですが、その日は香川が練習日で。休んでまでプライベートの理由で行くというのは、相談しにくいなと思っていたんです」。それでも、ヤクルトからのお願いとなれば話は別。「ばたつきましたけど」というのも思い出に残る一日となった。

 坂口とは、それこそ“濃い”縁がある。「僕がヤクルトに行けた理由は、坂口もあるのかなと思っていて」。そう明かす理由はこうだ。近藤は2016年のシーズン途中にオリックスからヤクルトにトレード移籍した。ただ、その数年前から「近藤一樹」の名前は他球団から注目を集めていた。トレードを本格的に検討した球団もいくつかあったが、二の足を踏んだのが手術歴だろう。4年連続で手術を受け、2015年には育成選手契約となった時期もあった。力はある。しかし「近藤は本当に使えるのだろうか」。そんな疑問に打ち消したのが、坂口だったかもしれない。

 当時、先にヤクルトに入団していた坂口は、編成部や投手コーチから「近藤どうだろう?全然、投げてないな。肘とか痛いだろう」という“取材”があったようだ。そこで坂口はキッパリ断言する。

 「いや、大丈夫です。絶対に投げられます」

 そんな後日談は、実は近藤の耳にも届いていた。「普通の会話の中で売り込んでくれていたみたいで。だから、坂口が僕の道を広げてくれたのかなって。(球団が)評価してくれていたのはありがたいです。それと、後押ししてくれたのが坂口ということも」。果たして、近藤はどうなったか。2018年に記録した74試合登板は、いまだにヤクルトの球団最多登板記録(2015年の秋吉と並び)として燦然と輝いている。自身初のタイトル、最優秀中継ぎ投手賞にも輝いた。

 坂口は自らの引退会見で「最後の近鉄戦士」と言われ、「コンちゃんは、まだまだ、バリバリで投げていてください」とすかさず返している。「あいつのせいで背負わされたみたいな」と近藤は笑ったが、心地よさそうだった。「そこで名前が出たから、だから花束贈呈も近藤ありかな、という話なのかもしれませんね。そこも坂口に引っ張られているんですかね」

 その会見後、実は坂口からメールが届いた。「選手は辞めるので、いらない道具は香川に送りますね」。グラウンドで練習する香川の選手が、ヤクルトのウエアやバットを使っている光景が自然と目に留まる。「何かあると、ヤクルトの選手が集めてくれるんです」。近藤は感謝するが、それは近藤一樹の人間性でもある。

 そして、引退試合で近藤がサプライズで登場した際の坂口の泣いたような笑ったような表情が何とも良かった。「同じ道を歩んできた仲間です」。近藤は何度もそう表現し、心地よさそうだった。

 ◆近藤 一樹(こんどう・かずき)1983年(昭58)7月8日、神奈川県出身の39歳。日大三から01年ドラフト7巡目で近鉄入り。04年オフの分配ドラフトでオリックスに移籍し、08年自己最多の10勝。11年以降は右肘故障に苦しみ、14年オフの育成選手を経て、翌年4年ぶりの復活勝利。16年途中にヤクルトに移籍し、18年には球団タイ記録となる74試合に登板、最優秀中継ぎ投手賞のタイトルを獲得した。NPB通算347試合、43勝57敗、4セーブ、71ホールド。右投げ右打ち。

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