【内田雅也の追球】「ハウエバー」上を向いて――激闘に敗れ、決戦の「バトル」に挑む阪神

[ 2019年10月7日 08:00 ]

セCSファーストS第2戦   阪神4―6DeNA ( 2019年10月6日    横浜 )

7回無死一塁、植田は二盗失敗。遊撃手大和(撮影・北條 貴史)
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 大リーグ好きでも知られた直木賞作家、常盤新平に『そうではあるけれど、上を向いて』(講談社文庫)というエッセー集がある。「そうではあるけれど」は、英語howeverのつもりらしい。同じく野球好きだった<山口瞳の真似(まね)>だと明かしている。

 確かに……、阪神は敗れたが……、救援投手の2イニング目(9回、山崎康晃、岩崎優ともに被弾)は苦しいのだろうが……、終盤の内角球は危険(山崎康、岩崎の被弾はともに内角直球)なのだろうが……、代走・植田海の盗塁死(7回表)は痛いが……、糸原健斗のグラブに当たったのは不運(6回裏の左前適時打)だったが……、先発・青柳晃洋は持ち味の大胆さがなかったが……、それがどうだと言うのだ。ハウエバーである。

 そうではあるけれど、上を向きたい。

 ヘッドコーチ・清水雅治は「誰も怒れませんよ」と選手たちの奮闘をたたえたそうだ。季節をいくつか越え、阪神はこれほどの試合ができるまでになった。試合終盤、もう勝っても負けても構わないとまで思えた。

 知力、胆力、技術力、体力……とすべてをぶつけたのだ。

 いま、ラグビー・ワールドカップ(W杯)で日本代表の戦いぶりが感動を呼んでいる。阪神監督・矢野燿大も「バトンを受け取った気がする」とあやかりたい気持ちでいる。ならば、ラグビーのたとえをひきたい。

 元早大、日本代表監督・大西鐵之祐(1995年、79歳で他界)は「百の理屈を教え込んで百一番目に理屈じゃないと断言できる人」だと、教え子が定義している。藤島大が書いた、大西の評伝、その名も『知と熱』(文春文庫)にある。理論や戦略の「知」を説いたうえで、最後は「熱」なのである。

 決戦を前に、大西は選手たちに「君たちがここまでやってきたのはゲームだ」と語った。<静かな口調はここで終わった。「ええか、ここからはバトルやっ」いきなりの怒声だった>。

 最後は理屈ではない、人間の勝負なのだ。それは野球も同じである。阪神の選手もコーチも監督も皆、分かっている。

 7日の決戦も激闘となるだろう。デーゲームからナイターへ。気持ちを整理する時間は十分にある。こんな大舞台でまた試合ができる。明日がある。

 敗戦投手となった岩崎の言葉が頼もしい。「重圧のかかった試合がまだできる」。その通り、緊張も重圧も受けいれ、楽しみたい。何とも幸せではないか。=敬称略=(編集委員)

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2019年10月7日のニュース