矢沢永吉 若くなりたいと思わない 「矢沢永吉」という人生をを生き抜いてみたい

[ 2022年8月16日 11:30 ]

矢沢の金言(10)

2014年、日本武道館公演でギターを弾きながら歌う矢沢永吉
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 デビュー50周年を迎えた日本ロック史上最大のスター、矢沢永吉(72)が激動の人生を自らの語録で振り返る大型連載「YAZAWA’S MAXIM 矢沢の金言」(毎週火曜日掲載)。第10回は「この前、自分に問い掛けた」ときに生まれたという出来たての名言。大人のショーマンを追求してきた中「今の年齢だから見えてきた世界がある。若くなんてなりたくない!」という72歳のロッカーの深意とは――。(構成・阿部 公輔)

 この前、僕、自分に問い掛けたの。もし、神様から「矢沢、何億円か払えば30年前に戻してあげる」と言われたら、お前どうする?って。

 30年前に戻っても、今の知識は消えないで残るの。それでいて肉体は若くなるから42歳。時代もあの頃。最高じゃん!自分の人生であの時もっとこうしてたらとか、会社経営もスムーズにできたんじゃないかって反省はいっぱいある。だから30年前にタイムマシンで戻ってみたいよ。

 だけど、若くなりたいとは思わないんだ。本当に戻りたくない。反省だらけの人生が全部成功に変えられるのに。また、人生やり直すのが面倒くさいのかな。豪州の詐欺事件やらマネジャーに裏切られたとか、いろいろあり過ぎたからもう勘弁だよって(笑い)。

 まあ、腹立つことも悔しい思いもいっぱいありました。でも「俺、十分やったよ」という気持ちが強いのかもしれない。だから俺の答えは、若い頃に戻る気、全くなし!予定通り、このまま行きたい。

 このくらいの年になると、朝起きたら、うがいから始まる。水いっぱいギュッて飲んでそっから。それでヨーグルト食べて、コーヒー沸かして、体の動きが若い頃のようにパパッとできない。よっこらっしょって(笑い)。わかるんだよ、血液が巡ってだんだん良くなってくるのが。本気で目が覚めるのに30分くらいかかる。年取るってこういうことなんだと、つくづく思う。

 でも、30年前に戻りたいとは思わない。それは今、健康だからというのはある。でも、せっかく親からもらった命、運命、魂がどんな行く末になるのか。「矢沢永吉」という人生をこのまま最後まで生き抜いてみたいっていうのがあるんだね。

 だからかな。最近、ウチの親父の気持ちも分かってきた。被爆してて、奥さんに逃げられて幼い僕を引き取って。育てられるはずもないのに、この女に渡してなるものかって男の意地があったんじゃないかな。それは未練の裏返しだったと思うと、親父の弱さも無念さも分かるんだ。

 俺が8歳の時に親父は死んじゃうけど、いつも川べりで牛乳とコッペパンだけの朝ごはんを食べている姿を今も覚えている。男としての寂しさ、つらさ、切なさ。実はその情景が、俺自身を形成したところありますよ。「I LOVE YOU,OK」とか「時間よ止まれ」などのメロディーにも出てきているかもしれない。

 反骨のロックむき出しのライブ一筋でやってきた矢沢が、50代半ばからロックオペラとかクラシックと融合したコンサートにも挑戦し、64歳でディナーショーも始めた。現役のロックシンガーを追求しながら、大人のショーマンの矢沢も築いてきた。それは、今の方が見えてきた世界ってあるのよ。何でも若い頃の方がいいわけじゃない。今の年齢だからこそ、今の俺だからこそって本当にある。

 実際、今の永ちゃんが最高!って言ってくれる声は多い。だから何でも、どこから入ったのか、入り口って大事よ。親父のことを理解できるようになったことで、男は壊れやすいから切なくて、切ないから渋いんだと分かってきたんだ。

 僕は昔から「人生は失うものを増やしていくゲームだ」と言ってきた。失うものが多いことが生きてきた証だし、僕も今では孫がいたりする。それは幸せの証拠です。でも、寂しさが増えることも人生だから。特に男は女性と違い、群れずにひとりになっていくから切ないよね。でもいいじゃない!それが人生だし、だから年を重ねた男は渋いのよ。

 来月で矢沢、73歳になります。あと何年やれるか全く分かりません(笑い)。でも若かった過去よりも、あてにならない未来よりも、来週末の国立競技場のライブをキメてやるぜ!って燃えている今が大事。猛暑の中、体力的にもギリギリだけど、ある意味で矢沢史上最もスリリングなライブになる。そう感じた時のビリビリくる刺激がたまんないのよ!俺がこのままの人生を貫きたい理由。もう分かってくれたよね?

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