【内田雅也の追球】緊張感と隠れた殊勲打 3―0となった3回裏、なお無死満塁で見せた佐藤輝明の打撃

[ 2023年4月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神15ー0巨人 ( 2023年4月27日    甲子園 )

<神・巨>2回1死、佐藤輝は死球を受ける(投手・山崎伊)(撮影・大森 寛明)
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 大勝の阪神だが、グラウンド上もベンチ内も気の緩みを感じさせるものはなかった。「おう、それがええのよ」と監督・岡田彰布は言った。

 「こんな試合はよくダラダラになるけどな」

 伊藤将司の完封がかかっていたこともある。5、8回に安打で一塁走者が出たが、大差でも大山悠輔はベースに付き、二塁をやらない守備隊形を敷いた。1点もやらないという緊張感を保ち、無失策で通した。15点差での完封は快挙と言える。

 序盤3回までに8―0と大量リードしても岡田は気を緩めなかった。野球の怖さを知っている。

 伝統の一戦の歴史で言えば、優勝を争った1973(昭和48)年10月11日の後楽園球場の激闘がある。阪神は2回を終え7―0と大量リードしたが、巨人の猛追にあい、延長10回、10―10で引き分けた。優勝を逃す一因となった。北陽高(現関大北陽高)1年生だった岡田も記憶にあろう。

 自身が前回監督当時の2008年の交流戦、打撃コーチが「優勝を勝ち取ろう」と選手にハッパを掛けた。岡田はこの発言を良しとしなかった。「野球は打撃だけではない。いくら打っても投手が打たれたらあかんのや」。おそれた通り、直後のロッテ戦(6月15日・千葉)で9点奪いながら10点取られてサヨナラ負けした。「優勝など軽々に口にするもんやない」との思いが今の「アレ」発言につながっている。

 投手が快投し打線が呼応する。守備でもり立てる。投攻守に連係した野球らしい大勝だった。

 さて、大量得点の隠れた要因に佐藤輝明の打撃をあげたい。3―0となった3回裏、なお無死満塁で内野安打とした。

 前の打席で顔面近くにブラッシュ気味の投球(右そでへの死球)を受けながら、続く打席で踏み込んだ。だから右腕の外角シュートについていけた。バットは折れたが一、二塁間に運べた。

 「無死満塁は最初の打者が肝心」と語ったのは西本幸雄である。あの「江夏の21球」の79年日本シリーズ最終戦、無死満塁無得点で日本一を逃した悲運の闘将だから味わい深い。「最初の打者が走者を還せなければ続く打者に重圧がかかる。還せば大量点になる」。この夜の展開である。

 岡田は試合後も緩めていなかった。クラブハウスに消える前、余韻に浸る間もなく真顔になり「明日が心配や」と漏らした。 =敬称略=(編集委員)

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2023年4月28日のニュース