金2つ生んだ「聖地」経ておかえりハマスタ 85日間で“五輪仕様→元通り”総勢600人の模様替え奮闘記

[ 2021年9月7日 05:30 ]

東京五輪開催時の横浜スタジアムのバックスクリーン
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 侍ジャパンの金メダル獲得から、7日でちょうど1カ月を迎えた。東京五輪の野球、ソフトボール競技で日本代表が優勝した舞台となったのが横浜スタジアム。その興奮が冷めやらぬまま、球場スタッフはプロ野球のシーズン再開への準備に入っていた。現場で陣頭指揮を執ったのは、約30年間にわたり球場整備を担当してきた横浜スタジアム取締役業務管理部長・重田克巳氏(56)。壮大な「模様替え」の舞台裏に迫った。(大木 穂高)

 6月6日以来、86日ぶりのハマスタ主催試合となった8月31日の広島戦。DeNAが逆転勝利した瞬間を見届けた重田氏は安どした。

 「何とか試合が無事に終わりました。投手陣の皆さんも“特に問題ないです”と言ってくれた。ホッとしました」。

 侍ジャパンが金メダルを獲得した翌日の8月8日から、五輪仕様からシーズン仕様に戻す作業がスタート。「午前8時から午後7時まで、休みなくぶっ通し。神頼みの天候にも恵まれ、20日くらいまでには(大部分を)元に戻すことができた。微調整は30日まで続いた」と言う。

 作業は多岐にわたる。広告の塗り直し、広告壁を覆ったカバーの撤去、土の入れ替え、インフラ再整備…。8日から23日間の作業には関係者約200人が携わった。競技開始前の期間や運営を含めると、約600人に及んだという。

 テレビ観戦した視聴者の目を引いたのは、普段の広告が消えて五輪仕様の青色に統一されたフィールド内外の広告壁だろう。「外野フェンスはペイント作業で塗り替えたので、従来のものへ塗り直した。シートカバーで覆う案も出たが、打球が当たり、剥がれて従来の広告が顔を出すとまずいので、取りやめになった」と説明した。

 苦慮したのは「ウィング席」と呼ばれる一、三塁側の観客席最上段エリアの広告壁だった。敵は横浜の海風。「強風でシートを片付けるのもひと苦労。専門家が風速を計算し、強風に耐えるカバーで覆われていたが、大会期間中も何が起きるか気が気ではなかった」と振り返った。

 フィールド内の土の入れ替えは、大会組織委員会の指示通り、19年の「プレミア12」で使用した粘土質の硬い土に入れ替えていた。これもまた、リーグ戦に向けて元に戻す工程が必要だった。

 五輪で使用した土は、今年4月から外野席の下にあるブルペンの一部に取り入れ、入念に試していた。「水をまいたり、踏み固めてみたり。自分たちなりに研究した。大会期間中に実際どうなるか分からないので不安でした」。トラブルもなくシーズン仕様への再入れ替えも無事に終了。胸をなで下ろした。

 Wi―Fiなどのインフラも五輪期間中は組織委員会指定のものに全て取り換えた。20年開催に向け、19年2月から作業を進めていたという。長い間球場に携わった重田氏にとっても、6月7日から8月30日の85日間は、かけがえのない日々となった。

 「ここまで緊張が続いた日々はなかった。期間中に台風が5つ来た。これが奇跡的に全て会場からそれてくれた。努力が報われた感じです」

 作業に携わった600人全員の思いを代弁するように語った重田氏。野球とソフトボールの栄冠の陰に、不断の努力があった。

 ≪ハマスタだからできたマウンド取り換え≫横浜スタジアムでは7月27日、ナイターのソフトボール決勝が終了。29日のナイター、韓国―イスラエル戦で同球場での野球競技が幕を開けた。ソフトボール仕様から野球仕様への転換まで中1日。ここも、スタッフの腕の見せどころだった。重田氏は語る。

 「短期間での野球フィールドへのつくり替えは、事前打ち合わせのときから“できます”と大会組織委員会に話していました。うちにはそれができる特徴があるんです」

 最も重要な作業は、マウンドの投手プレート周辺に敷き詰めた土を人工芝に入れ替える作業。実は05年にソフトボールの「ジャパンカップ」を開催した際、入れ替えを容易にするために一定エリアを掘り起こせるシステムを導入したという。だから、今回も作業はスムーズに進んだ。

 「他の人工芝の球場だとソフトボールでは投球マットを敷くなどする。プレート周辺に土を入れることができるのも、この球場を採用していただいた一因だと思います。でも05年当時、将来五輪に役立つとは思ってもいませんでした」と実感を込めて話した。

 ≪話題のリリーフカー“リハ”があった≫野球競技で話題になったのが、救援陣が登場時に乗ったリリーフカーだ。大会スポンサーでもあるトヨタ自動車製のオリジナル車で、座席部分が大きなグラブの形をしているなどユニークな形。この球場で通常使用されるリリーフカーとは異なる。重田氏は「弊社で臨時雇用している社員がいつも運転するのですが、慣れない車なので今回は事前に(運転の)練習に行かせた」と明かした。

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