【新井さんが行く!】日本が世界に約束した「おもてなし」果たしてくれた五輪・パラのボランティアに感謝

[ 2021年9月7日 05:30 ]

新井貴浩氏
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 失われたものを数えるな。残されたものを最大限にいかせ――。パラリンピックの創始者とされるルートヴィヒ・グットマン博士の言葉が深く胸に突き刺さり、オリンピック以上に見入った2週間だった。

 盲目の柔道家、松本義和さんは00年シドニー大会の銅メダリストで、04年アテネ大会以来、17年ぶりに出場した。6月で59歳。現役で挑戦を続けたのは、子供たちを思ったからだという。TVで見たインタビューの言葉が胸に響いた。「小さい頃からキャッチボールやドライブをしてあげられなかった。背中で何かを感じてもらえたら、それが父親の役割、責任になるのかな」。初戦と敗者復活戦で敗退。メダルの有無は関係ない。勝敗も超えて伝わるものがあった。子を持つ同じ父親として自分はどうなんだ…と省みる思いだった。

 日本が初出場したブラインドサッカー。スペインとの5―6位決定戦では「奇跡のゴール」があった。音が頼りの競技で、宙に浮いた無音のパスを蹴り込んだ決勝点。本当に奇跡だと思った。

 コロナ下の世界は、1年半を超える時間がすぎた。以前と同じ日々を送る人はほとんどいない。それぞれの立場で大変な苦労を重ねてきた。それぞれに「失ったもの」がある。だからといって、誹謗(ひぼう)や中傷が広がるギスギスした空気は胸に痛い。自分だけが我慢したり、つらい思いをするのは許せない…という発想は、やはり悲しい。そこから生まれるのは、負の連鎖しかない。

 パラリンピアンは「失ったもの」にとらわれていない。正反対の思考で挑み続けてあの舞台に立った。とてつもない喪失感を乗り越えた勇姿には敬意しかない。いまの時代を生きる道しるべだと感じた。

 オリンピックを含めた「東京2020」が終わった。実際に足を運んだ野球競技の横浜スタジアムを含めて無観客がほとんど。会場の寂しさを補ってくれたのは、運営を支えてくれた人たちだ。多くが無償のボランティア。スタッフとしてだけでなく“ファン”として応援してくれた。それも国に関係なく、すべてのアスリートに向けて。招致が決まった8年前、日本が世界に約束した「おもてなし」を果たしてくれたのは彼らだった。ありがとうございました、と伝えたい。(スポニチ本紙評論家)

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