【内田雅也の追球】阪神・西勇、高みへの道 敵に教えられた「先頭打者」の重要性

[ 2021年4月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-2中日 ( 2021年4月27日    バンテリンD )

<中・神>7回無死、ビシエドに右前打を浴びた西勇(撮影・坂田 高浩)
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 パナソニック(旧名・松下電器産業)創業者で「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助の命日だった。1989年4月27日、気管支肺炎で他界している。94歳だった。

 松下が残した多くの名言のなかに<敵に教えられる>とある。ロングセラーのエッセー集『道をひらく』(PHP研究所)にある。<(相手に)対抗しようと、あれこれ知恵をしぼって考える。そしてしだいに進歩する。実は相手に教えられているのである>。

 この夜は投手戦だった。阪神・西勇輝、中日・大野雄大、リーグを代表する両エースがともにテンポよく投げ込んだ。入場制限された観衆は6529人。静かなバンテリンドームナゴヤの場内には、西、大野ともに、打ち取った際にあげる声が響いた。気力も充実していたようだ。

 こんな展開を「相手投手と戦うんや」と語ったのは近鉄のエースとして通算317勝をあげた鈴木啓示(本紙評論家)である。山田久志(阪急)や村田兆治(ロッテ)らの名をあげ「打者でなく、むしろ投手と戦っていた。相手より先にマウンドを降りてたまるか、という思いだった」と語る。相互に刺激を受け、投手戦は熱を帯びた。

 西も同じではなかったか。先取点をもらい、1点を守ろうとの重圧もあっただろうか。何しろ、大野の投球が素晴らしかった。

 西が後半失点した6、7回裏は回の先頭打者に安打を許している。京田陽太同点犠飛のシュートも、木下拓哉決勝打のチェンジアップも確かに高かったが、無死一塁からピンチを招いたのが響いた格好である。

 対する大野は8回まですべて回の先頭を打ち取った。許した走者は2安打2四球1失策の5人ですべて2死からで、機動力も使えなかった。打線は本塁打を除き、二塁すら踏めなかったのだ。

 回の先頭を取れ、という意味の「ゲット、ナンバーワン」。明治時代からある警句を思った。小学生でも知る、当たり前の定石だが、一流プロ同士の投げ合いにも通じている。

 今のプロ野球創設初年度1936(昭和11)年から変わらず対戦を続ける竜虎の対決である。阪神はこの夜で中日戦通算1000敗。大きな節目の敗戦は、また教訓的だったと言える。

 西は8回表に打順が回り、代打が出て西は大野より先に降板となった。悔しさも募ったことだろう。

 ただ、「神様」はこうもいう。<倒すだけが能ではない。敵がなければ教えもない。従って進歩もない。たがいに教え教えられつつ、進歩向上する道を求めたい>。

 7回2失点の投手に敗戦の責任はない。西は、より高みに上る道をひらいたのだと受けとめておきたい。=敬称略=(編集委員)

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