阪神 苦難続く藤浪と北條の“物語”…野次ではなく拍手注がれる姿を見たい

[ 2020年7月31日 12:40 ]

<ヤ・神9>7回2死一、三塁、上田の飛球に北條(左)と近本が交錯して落球、2者が生還する(撮影・篠原岳夫)
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 打席に向かう背番号2に次々と“声”が飛んだ。有観客開催のガイドラインでは禁止されているはずの大声が、その背中に突き刺さる。ファンは、溜まったフラストレーションを抑えることができなかったのだろう。

 その直前の7回、阪神の北條は守備で2失策していた。先頭・宮本の遊ゴロを弾き、その後も2死一、三塁で坂口の放った飛球を追ったものの、中堅・近本と交錯する形で落球。2者の生還を許す痛恨のミスで、試合の行方は決してしまった。

 見る者に怒りや悲しみを抱かせたのもマウンドに、藤浪がいたからだろう。右腕は2年ぶりの白星を目指して力投していた。何より、この2人は高校時代からしのぎを削ってきた特別な間柄。12年夏の甲子園決勝で相まみえ、藤浪の大阪桐蔭に北條の光星学院は屈した。その秋、導かれるようにタテジマに袖を通した聖地のスター揃い踏みの活躍を期待してきた人々にとっては、より悲劇的に映った神宮の夜だった。

 「誰もエラーしようと思ってしてないですし、ああいう所でカバーできたら」。試合後、背番号19は言った。降板後には、厳しい表情でベンチに座る北條の肩を叩き、言葉をかける場面もテレビ画面に映った。北條を批判も擁護もするつもりはない。ただ、新人時代から2人を取材してきた者として「なかなかうまくいかないな」と思う。1週間前の23日広島戦(甲子園)も同じ7回に失策を犯し今季初登板だった藤浪の足を引っ張っていた。

 近すぎず、遠すぎず――。大阪出身で中学時代から互いを知る2人には特別な距離感がある。チーム内には近本、木浪、大山ら同世代が11人。「晋太郎」「ジョー」と呼ぶ選手が多い中で、今でも互いに「藤浪」「北條」でずっと変わらない。

 以前、北條に聞いたことがある。「中学から僕の中では“藤浪”なんすよ。晋太郎って呼べるんですよ。でも、あいつも“今さら何”って、びっくりしますよ」。一方の藤浪は「密かな目標」としてお立ち台競演を口にしてきた。これは、同時に甲子園に足を運ぶファンの夢でもある。

 藤浪も成績が下降し始めた当初はスタンドから厳しい声を浴びた。ライバルからチームメートへ関係性の変わった2人の“物語”は今のところ苦難が続く。並び立つ背中に野次ではなく、拍手が注がれる幸せな“続き”を見たい。(遠藤 礼)

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