大谷は球速落とさず「元のように投げられる」トミー・ジョン手術600件以上執刀の古島医師が断言

[ 2020年1月8日 09:00 ]

ブルペンで投球練習するエンゼルス・大谷
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 一昨年秋に右肘のじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けたエンゼルスの大谷翔平投手(25)が、昨年12月にリハビリを終了した。二刀流復帰を目指す今季を前に、同手術を執刀する慶友整形外科病院の古島弘三医師(49)に直撃。最速165キロ右腕が向き合うメジャー3年目を占った。(取材・構成 大林 幹雄、柳原 直之)

 群馬県館林市。この町に近年では年間約30~40件、国内では最も多い通算600件以上のトミー・ジョン手術を執刀している日本の権威、古島弘三医師がいる。一昨年秋の同手術を経て今季の二刀流復帰を目指すエンゼルス・大谷の復活を信じて疑わない一人だ。

 大谷は昨年12月中旬に右肘のリハビリを終了。術後16カ月目の今年2月は2年ぶりに投打二刀流でキャンプを迎えるが、古島医師は断言した。

 「気にしすぎてやるべきじゃない。不安なくやってもらいたい」

 同手術では術後3カ月で骨と腱が癒合し、4カ月目からは筋力アップ、フォーム修正などのリハビリに移行する。エ軍は今季の大谷の投球回数や球数、登板数などを制限する予定だが、古島医師は「もちろん制限した方がいいが、長くやるためにはケガをしていなくても制限をした方がいい」と解説。同病院では術後8カ月目から全力投球を許可している。エ軍のビリー・エプラーGMは大谷の投手復帰時期が5月にずれ込む可能性を示唆し、今月には起用法が発表される見込み。術後1年以上が経過し、入念にリハビリメニューをクリアした今回は万全を期したケースだ。

 競争の激しい大リーグ。通算288勝を誇る同手術「第1号」のトミー・ジョンは手術前124勝、術後164勝と飛躍を遂げた。大谷が二刀流でメジャーを席巻した18年から2年が経過。古島医師は「手術をしてから、翌年は打者に専念し、その翌年は投手で復帰するプランで来ている。順調に来ていると思われますし、テレビで拝見する限り問題なく復帰できるでしょう」と言い切った。

 1年目の18年、大谷は100マイル(約161キロ)超の剛速球を連発し、切れのあるスプリットやスライダーを軸にメジャーの強打者たちを圧倒した。今季の大谷の投球についても、古島医師は「元のように投げられる。普通に期待していいと思います」と断言する。

 ただ、直球は肘に最も負担がかかり、カーブ、チェンジアップのような「抜き球」ではないスプリットやスライダーも負荷が相応に大きい。同医師は「160キロを投げる選手は140キロを投げる選手より、負担は上がる」と説明。腕を思い切り振る強度に関して「手術しても普通にやれる」と、最高球速は落ちないとした上で、投球スタイルが変わる可能性に言及した。

 「変化球の割合が多くなるかもしれない。ダルビッシュ(カブス)や田中(ヤンキース)のように、変化球を多くしていく可能性はあります」

 昨季の右肘のリハビリ中、大谷はキャッチボールで以前より右腕のトップの位置を早くつくる投げ方を試した。「バイオメカニクス的な観点から言えば、故障が少ない投げ方は研究されている。左足が地面に接地する前の段階で(前腕を)上に持っていく方が肘に対する負担が少ないというのはある」と同医師。そのキャッチボールでは故障再発のリスクを抑えつつ、かつ力強い投球を追い求めている様子がうかがえた。

 手術後に球速が上がる選手について、古島医師は「手術をしたから速くなるわけではない。集中してリハビリに臨んだ効果、またそれまでの問題点を改善できた結果」との見解を示した。現在の「世界最速」はチャプマン(ヤンキース)とヒックス(カージナルス)による105・1マイル(約169・1キロ)。大谷には将来的な記録更新の期待もかかる。ただ、全力での剛速球は勝負どころで使い、それまでは変化球でコーナーを突いて長いイニングを投げる――。今季は大谷がそんな新スタイルを手にする年になるかもしれない。

 ◆古島 弘三(ふるしま・こうぞう)1970年(昭45)生まれ、群馬県出身の49歳。弘前大医学部、同大大学院を経て、06年から慶友整形外科病院に勤務。現在は同病院の整形外科部長、慶友スポーツ医学センター長を務める。日本整形外科学会専門医、日整会認定スポーツ医、日本体育協会スポーツドクター、医学博士。学童から野球を始め、高崎高時代は野球部に所属。大学ではゴルフ部で全日本学生ゴルフ選手権大会に出場した経歴を持つ。

 ▽肘じん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)損傷した肘のじん帯を切除、手首や足首などから正常な腱を移植する。肘の骨に穴を開け、新たなじん帯を通して縫合。1970年代にフランク・ジョーブ博士が考案し、ドジャースの投手だったトミー・ジョンが74年に初めて受けたことで「トミー・ジョン手術」と呼ばれる。近年の統計では24~25歳の選手は80%超の確率で大リーグに復帰。

 《高校生の球数制限に持論》古島医師は、今年のセンバツから導入される「1週間で合計500球」の球数制限ルールに、故障防止の観点から不十分なルールと疑問を呈している。週に5試合で100球を投げられる上、練習での投球数に踏み込んでいない内容に「本気で(選手を)守ろうとしているようには見えない。それで守れる選手はいても1人か2人。決勝くらいまでいかないと、500球を投げる投手は出てこないと思います。練習を含めた規定を設けるべき」と訴えた。

 昨季限りで現役引退した楽天・館山2軍投手コーチをはじめ多くのプロの治療や手術を担当した古島医師も人数の割合では8~9割が小、中、高校生のアマチュア選手。「半数のチームは1回戦で負けるし、レギュラー争いの練習のさなかで投げすぎてケガをしてしまう子の方が多い」と指摘、アマ球界における勝利至上主義の見直しと、指導者の意識改革を求めている。

 米国では14年に発表された青少年育成のガイドライン「ピッチ・スマート」を採用。投球数と休養日の目安が示され、1週間の合計投球数にしてみると200球前後しか投げられない。また、制限なく連投できるのは1日30球までで毎日投げても週210球にしかならない。「育成年代においては、“ケガから子供たちを守りたい”と思っている指導者もいます。ルール化することで投手交代の理由として、そのような考えの指導者を、外部の批判から守ることができる」と話した。

 《“時短”と投手育成モットー ポニーLチーム 昨春に立ち上げ》故障防止の取り組みを実践すべく古島医師が昨年春に立ち上げたのが、ポニーリーグの「館林慶友ポニー」だ。短時間練習と多くの投手育成をモットーとしており「理解のある保護者の方に来ていただいている」という。座学でトレーニングや医学について学ぶ機会も設けている。

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