大人の藤井王将 “いぶし銀”5八銀 封じ手直前43手目「陣形考えた」斬り合いより堅実な受け選択

[ 2023年1月9日 05:00 ]

第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第1局第1日 ( 2023年1月8日    静岡県掛川市 掛川城二の丸茶室 )

対局中に窓から外を眺める藤井王将(撮影・小海途 良幹)
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 開幕した第72期ALSOK杯王将戦7番勝負は昼食休憩明け、藤井聡太王将に1時間超えの連続長考が飛び出した。直後、攻め合いの選択肢もあったが、自陣へ進入した羽生銀を消去すべく43手目▲5八銀(第1日指了図)と堅実な受け。地元の愛知県瀬戸市で成人式があった8日、「大人の藤井聡太」をアピールした。

 永世7冠相手に占めた上座で、タイトル戦初日を終えた。以前は連発した、記録係に消費時間を確認するシーンも少なく、終始、落ち着いた所作で指し手を重ねた。

 地元・愛知県瀬戸市ではこの日「二十歳を祝う会」が行われていたが、藤井がいたのは式場ではなく掛川の対局場。学生服姿での中学生デビュー戦から7年。和服を着こなし、大人の雰囲気が漂う。

 その藤井の指し手が、43手目▲5八銀だった。39手目に1時間16分、41手目に1時間10分。読み筋通りなら小考でいい。読み筋通りでないから連続長考となった、その直後。「どういう方針でやるか難しかった。少し受けに回って、陣形をどうまとめるか考えた」と柔軟に軌道修正した。

 解説の神谷広志八段(61)は▲5八銀を「堅実な受け」と表現。予想の本線は、5七の地点を守りつつ羽生陣をにらむ▲3五角だったという。

 その後、△3七歩▲2四歩△1五角▲2七飛△2四角▲同角△同歩▲3六角△3八歩成と攻め合えば、もう終盤だ。絶対の自信を抱くはずの斬り合いをひとまず回避し、一度腰を落とす選択。勝利への道筋が見えたら迷わない踏み込みも魅力だが、見えないなら確実にポイントを重ねる慎重さも備えてきた。1時間超えの連続長考を重ねたわりに、羽生より1時間17分多く残し、タイムマネジメントの成長も示した。

 16年のデビュー以来、公式戦3連敗がまだない藤井が、タイトル戦第1局では4連敗の危機にある。

 昨年棋聖戦以降、王位戦、竜王戦でも敗れた鬼門。第2局以降、全て巻き返したからこそのタイトル戦敗退なしの11連覇だが「要因が分かれば対策します」と苦笑い。「分からないので意識せず、普段通り臨むのがいいのかなと思います」と前向きに捉えた。

 挑戦者だった昨年は対局場に入ってすぐの控室を用意された。王将になった今年は奥の和室。「静かで快適です」。羽生相手に王将気分を味わい、「ここからいろいろな展開がある。(羽生の指し手に)対応できるように備えたい」と2日目を見据えた。これまで直面することの少なかった連敗ストップをかなえにいく。 (筒崎 嘉一)

 ≪封じ手は?≫
 ▼立会人久保利明九段 [後]5八同成銀。交換するのが自然な流れ。
 ▼副立会人神谷広志八段 [後]7六歩。5八の銀を取る前に、後の展開のため一工夫したい。
 ▼記録係中沢良輔三段 [後]5五角。相手の香車を狙いつつ、馬づくりを見据えた一手。

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