【内田雅也の追球】阪神よ、やり返せる要素はある!どん底からはい上がった「純粋な心」で雪辱を

[ 2022年10月13日 08:00 ]

セCSファイナルステージ第1戦   阪神1-7ヤクルト ( 2022年10月12日    神宮 )

<ヤ・神>5回、ケラーは村上を空振り三振に仕留める(撮影・椎名 航)
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 阪神・原口文仁は闘志が見える選手である。6点ビハインドの9回表1死から左前打を放った。さらにワンバンスタートで果敢に二塁を奪った(記録は暴投)。点差があろうとも前を向く姿勢を示していた。

 闘志は2回表の打席でも見えた。3点を先制された直後、無死二塁の反撃機。5連続を含むファウル8本で粘り、フルカウントから実に13球目の低めワンバンのフォークにバットを止めた。四球をもぎ取ったかに見えたが、一塁塁審は空振りの判定。三振に原口は声を荒らげていた。2回裏の守備に向かう際には球審から慰められ、背中をポンポンとたたかれる珍しい光景もあった。

 原口の懸命さはこうして人びとの心に響く。純粋なのだ。大腸がんと闘い、復活したという物語もある。野球ができる喜びを体現している。

 <純粋など夢物語だと笑うなかれ>と脳科学者・茂木健一郎が『緊張を味方につける脳科学』(河出新書)に記している。<本質は常に揺れ動いています><生きた本質に寄り添おうとするのには努力がいるのです>。原口も純粋さを保とうと努めているのだろう。

 阪神はこうした純粋さを基盤にしていたはずである。監督・矢野燿大が就任以来唱える「超積極的」「あきらめない」「誰かのために」などは「少年少女が憧れる手本になろう」という思いからきている。

 3回までに0―5と大差をつけられた試合は、そんな純粋さが試されていた。さらに言えば、あの悪夢の開幕戦の雪辱を思うべき展開だった。

 3月25日の京セラドーム。ヤクルト相手に5回で8―1と大量リードしながら8―10と逆転負けを喫した。9連敗の泥沼にはまり込んだ。

 大差逆転でやり返すと奮いたったろう。いや、あの悪夢を思い返す者が多くいたはずだ。

 あの開幕戦で9回表に逆転を許し敗戦投手となったカイル・ケラーは、この夜5回裏、2番手で投げ、山田哲人、村上宗隆連続三振など雪辱を果たした。「攻撃に流れをもってこられるような投球を意識した」と純粋に語っていた。だから6回表に1点を返せたのだ。

 結果は1―7の完敗だが、やり返せる要素はある。それは、シーズンで見せたように、どん底からはい上がった純粋な心である。 =敬称略= (編集委員)

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2022年10月13日のニュース