柳亭こみち 女性主人公の落語 「未来に伝えていくことが大事」

[ 2023年6月27日 09:00 ]

浅草演芸ホールの前で笑顔を見せる柳亭こみち
Photo By スポニチ

 【牧 元一の孤人焦点】落語家の柳亭こみちが東京・浅草演芸ホールの7月上席・夜の部で主任(トリ)を務める。

 演目は自身が古典の主人公を女性に変えて作った噺。寄席では通常、演目を事前に公表しないが、今回、こみちの演目に関しては7月2日「寝床~おかみさん編~」、3日「井戸の茶碗~母と娘編~」、5日「死神婆」、6日「船徳と嫁姑」…と明示している。

 こみちは「主任のお話をいただいて、その足で浅草演芸ホールさんにうかがったんです。その時、楽屋に春風亭一之輔兄さんがいたので、主任の話をしたら『せっかく古典の女性版、こみち噺を作っているのだから、それをやった方がいいんじゃないの!?』とアドバイスしてくれました。そう言われてみれば、トリの私の前に、猛者の中の猛者である師匠たちが出るわけですから、私がその中で戦うためには自分の切り札を使うしかないと思いました」と振りかえる。

 こみちは2006年に二ツ目、17年に真打ちに昇進。真打ちになってから本格的に、古典の主人公を女性に変えた噺を作り始め、現在までに、その数は約30作に及んでいる。

 「二ツ目まではまっすぐに古典をやっていました。でも、真打ちになって、凄い師匠たちの間に挟まれて私がいくら八っつぁんやご隠居さんを演じても、師匠たちの八っつぁん、ご隠居さんにはかなわないと考えました。落語の男性の登場人物が男性の演者に乗り移って巻き起こす笑いにはとんでもない力があります。それだったら、私は女性が活躍する噺を一つでも多く持とうと考えました。邪道と捉える人がいるかもしれませんが、私は古典への敬意を持って作りました。とはいえ、男性の役ができないから女性版をやっていると思われたら負けです。私の噺にも男性がたくさん出てきます。その男性たちが生き生きしていてこそ、初めて女性が生きます。私が二ツ目まで古典をまっすぐにやってきた意味はそこにあります」

 落語の登場人物が男性中心なのは長く演者が男性に限られていたからで、女性の落語家が増えた昨今、古典再構築や新作への動きは自然な流れに見える。

 「必然だと思います。古典で男性の登場人物はいろんなパターンがありますが、女性は基本的に4パターンしかありません。おかみさん、妾、芸者もしくは花魁、そして、お化け。それは演者が男性だけだったからなのですが、今の時代には、いろんな女性が出てこないと、むしろ、おかしい。女性の噺家が増えるにつれて女性の噺も生まれるべきだと思います」

 8月12日には東京・日本橋社会教育会館の8階ホールで芸歴20周年記念公演「この落語、主役を女に変えてみた~こみち噺スペシャル~」を行う。自身が「らくだの女」を披露するほか、弁財亭和泉が「死神婆」、古今亭雛菊が「あくび指南 女版」、春風亭一花が「井戸の茶碗~母と娘編~」と、こみち噺に挑む。

 「私が考えたことを私だけがやっていても私だけで完結してしまいます。もっと若い人たちに伝えたい。私が作った噺が自分の手を離れ、いろんな人にやってもらえるようにしたい。一花さんはまっすぐに古典をやってきた人で、最初はこの道に踏み込むのが怖かったようですが、出演を決めてくれました。彼女と話したら『姉さんの女性版をやりたい子はたくさんいます』と言ってくれて、うれしかったです。女性の噺家が生まれたからには、女性らしい噺がひとつでも多く生まれ、それを未来に伝えていくことが大事だと思います。後輩たちにやってもらう会を続けていきたいと思っています」

 このまま女性の落語家が順調に増えていけば、女性版が古典になる日が来るかもしれない。

 「こみち噺を男性に演じてもらいたいという思いもあります」

 落語界は新たな時代に入りつつある。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

続きを表示

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年6月27日のニュース