「TOKYO MER」黒岩勉氏 退路断ち放送作家→脚本家へ 30代半ば「よく決断」日本作品に危機感も

[ 2023年5月12日 10:30 ]

連続ドラマ、スペシャルドラマ、劇場版と「TOKYO MER~走る緊急救命室~」シリーズの脚本を手掛ける黒岩勉氏
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 俳優の鈴木亮平(40)が主演を務める劇場版「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(監督松木彩)が大ヒット公開中だ。新しい医療ドラマを生み出したのは、脚本家の黒岩勉氏(49)。4月23日にスタートしたTBS日曜劇場「ラストマン―全盲の捜査官―」(日曜後9・00)も手掛けるヒットメーカーに原点と転機、今後の展望を聞いた。

 話題作を生み続ける黒岩氏の原点は、幼少期の映画体験だった。

 「小さい頃、いわゆる鍵っ子だったんですね。家に帰ると1人なので、ほぼ毎日、お昼のロードショー的な番組を見ていました。中学校に入ってからは外で遊ぶようになりましたけど、それまでは映画の方が面白かったですね。小さい頃は映画監督になりたいと思っていました」と述懐。

 今も印象に残る作品は?と尋ねると「シーン、シーンは覚えているんですけど、タイトルは全く忘れてしまって。1つ思い出すのは、たぶん『星になった少年』(1977年公開のイタリア映画)という作品なんですが、少年が主人公のロードムービーなので、シンパシーを感じたんでしょうね」と記憶を辿った。

 大学卒業後は映画の道に進みたかったが「映画会社もテレビ局も全部落ちてしまって。広告のゼミだったんですけど、教授に相談したら、放送作家の仕事を紹介されたんです」。バラエティー番組や報道・情報番組、スポーツ中継まで、数々の番組の構成に携わった。

 「放送作家も楽しかったんですが、30代中盤に差し掛かる時、本当にこのままでいいのかな、と自分のことを見つめ直しました。環境に甘えていた部分もあったのかな、と。20代後半に一度、シナリオ学校に通ったこともあったんですけど、すぐに辞めていて。これがラストチャンスだと思って、もう一度、脚本に向き合いました。今振り返ると、当時は既に家族もいたのに、それなりに稼ぎのあった放送作家を辞めてまでとは、我ながらよく決断したと思います(笑)。退路を断つぐらいの情熱があったんですね」

 そして08年、「パーフェクトゲーム」で第20回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作を受賞。09年、同局「世にも奇妙な物語」秋の特別編の一遍「自殺者リサイクル法」で脚本家デビューを果たした。同年、すぐに同局連続ドラマ「LIAR GAME Season2」に抜擢され、その後は「謎解きはディナーのあとで」「ようこそ、わが家へ」「貴族探偵」「モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―」、TBS「グランメゾン東京」「危険なビーナス」「マイファミリー」、劇場アニメ「ONE PIECE FILM RED」などを担当。17年、関西テレビ制作の連ドラ「僕のヤバイ妻」は第5回市川森一脚本賞に輝き、サスペンス・ミステリーの名手となっている。

 劇場版「TOKYO MER」は黒岩氏がオリジナル脚本を手掛けた2021年7月期のTBS日曜劇場の映画化。都知事の号令の下、新設された救命救急のプロフェッショナルチーム「TOKYO MER」の奮闘を活写し、SNS上などで大反響。コロナ下の医療従事者に勇気を与えた。

 「待っているだけじゃ、救えない命がある」――。アクション映画に勝るとも劣らないスピード感とスケール感、特撮ドラマのようなヒーロー感とチーム感が視聴者の心をわしづかみに。毎回、極限のオペが行われるスリリングな展開に加え、同局看板枠・日曜劇場初主演となった喜多見幸太役・鈴木の熱血ぶりや的確な処置、バディ音羽尚役・賀来賢人のツンデレぶりなども話題沸騰。21年夏ドラマNo・1のヒット作となった。

 医療従事者への思いをエンターテインメント作品として見事に昇華。4月16日に放送されたスペシャルドラマ、劇場版へスケールアップと深化を遂げた。

 「エンターテインメントにも色々な定義があると思いますが、性別や年齢、国を問わず『誰が見ても面白いもの』だと僕は考えています。エンタメとして作品をどこまで面白くできるか、が僕の中の1つのテーマ。まだ10年ちょっとのキャリアしかないですけど、今の自分としては一番の“エンタメの答え”を出したつもりです」。目下の黒岩作品の集大成となった。

 最後に、今後の執筆活動の展望を尋ねると「ミステリーもラブストーリーも、コメディーも重厚な人間ドラマも、何でも書いてみたい。エンターテインメントをベースに、振り幅を広げて、引き出しを増やしていきたい、というのが一番にあります」とした上で「これだけ動画配信が広がって、日本市場だけに向けた作品を作る時代じゃなくなったのは間違いないですよね。でも、日本のドラマや映画がまだガラパゴスだというのは、僕も含めて業界の人はみんな危機感を持っていると思います。海外市場でもヒットする作品を作りたい、その競争にしっかり参加できるようになりたい、という気持ちも同じぐらい一番にありますかね」と世界を視野に入れている。

 今や質の高い海外ドラマや映画が動画サブスク(サブスクリプション、定額制見放題サービス)で視聴可能。19年公開の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が第92回米アカデミー賞作品賞を獲得したことも記憶に新しい。

 「語弊を恐れずに言えば、やっぱり海外のヒット作は誰が見ても分かるものを作っていると思います。もちろん日本の作品は素晴らしいですが、どうしても台詞頼みになる部分があるんじゃないでしょうか。脚本作りにおいて台詞は非常に大事ですし、僕も台詞を書くのは好きなんですけど、その国の文化や生活様式を知らないと、その台詞を言う登場人物の心のひだまでは、なかなか伝わらないと思うんですよね。なので、日本の作品が海外市場で闘うためには、台詞が良いのは絶対条件で、そのほかに、まずは企画とキャラクター、次に展開や構成力が重要になってくるんじゃないかと、個人的には思っています」

 「勝手なことを言わせていただくなら(笑)、『LA(ロサンゼルス) MER』とか、海外、アジア圏とのコラボレーションが実現したら面白いですよね」と構想を披露。連ドラ版は21年10月から動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」で世界配信されており、海外の視聴者にも好評という。「自分が言うのもおこがましいんですけど、日本の文化を知らない人が見ても非常に分かりやすい内容だと思うんです。根本にあるテーマは、命の大切さ。これは古今東西、変わらないものですから」。喜多見チーフらMERチームが世界の人々を救う姿に期待したい。

 ◆「劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~」あらすじ 横浜・ランドマークタワーで爆発事故が発生。SPドラマのラストに新ERカー「YO1」が登場した「YOKOHAMA MER」は冷徹なエリート集団。チーフドクター・鴨居友(杏)の信念は「安全な場所で待っていなくては、救える命も救えなくなる」と喜多見(鈴木亮平)とは真逆のものだった。そして、ビルの中に喜多見と再婚した高輪千晶(仲里依紗)が取り残されていることが判明。妊娠後期の千晶は切迫早産のリスクを抱えていた…。

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