「鎌倉殿の13人」“鎧の伏線”佐藤二朗も驚き!比企能員“往生際”の舞台裏 現場の創造力&小栗旬に感謝

[ 2022年8月14日 20:45 ]

「鎌倉殿の13人」比企能員役・佐藤二朗インタビュー

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第31話。北条の策に嵌まった比企能員(佐藤二朗)(C)NHK
Photo By 提供写真

 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は14日、第31回が放送され、俳優の佐藤二朗(53)が硬軟自在に演じ、唯一無二の存在感を放ってきた“13人衆”の1人、比企能員の最期が描かれた。北条と比企が繰り広げた苛烈な権力闘争も、ついにピリオド。佐藤に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。新都・鎌倉を舞台に、13人の家臣団が激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 佐藤演じる比企能員は、源頼朝(大泉洋)の乳母・比企尼(草笛光子)の甥にあたる武蔵の豪族。頼朝亡き後、13人の合議制に名を連ねた。2代鎌倉殿・源頼家(金子大地)の乳母夫を務め、頼家の側室となった娘・せつ(山谷花純)が嫡男・一幡を生むと、さらに台頭。頼家の跡継ぎをめぐり、北条との覇権争いは熾烈を極めた。

 第31回は「諦めの悪い男」。頼家(金子)の後継者をめぐり、激しさを増す北条と比企の争い。能員(佐藤)は娘・せつ(山谷)が産んだ頼家の長男・一幡(相澤壮太)を推し、早々に朝廷の許しを得ようと躍起になるが、大江広元(栗原英雄)らは取り合わない。一方、北条義時(小栗)は比企の動向を探るよう妻・比奈(堀田真由)に頼み、三浦義村(山本耕史)にも相談を持ち掛ける。そんな中、政子(小池栄子)の元に北条時政(坂東彌十郎)りく(宮沢りえ)夫妻らが集まり…という展開。

 建仁3年(1203年)に起こった「比企能員の変」。史書「吾妻鏡」には、能員は仏事の相談があると時政に呼ばれたため武装しなかったとあるが、今作は関東・関西の統治権交渉が決裂し、時政から和議の申し入れ。能員は胆力を示そうと丸腰で北条館に向かったが、義時たちの騙し討ちに遭った。しかし、能員もしぶとく、着物の下に鎧を仕込む用意周到ぶりだった。

 第15回(4月17日)、木曽義仲(青木崇高)討伐、つまり源氏同士の争いをめぐって頼朝への反発が強まり、鎌倉は二分。万寿(源頼家)の「足固めの儀式」が行われる日に三浦を中心に大掛かりな鹿狩りも催されるとあり、能員は鎌倉・三浦館を偵察した。しかし、和田義盛(横田栄司)に刀を突きつけられ、上総広常(佐藤浩市)からは「我らの仲間になると誓えば、助けてやる」と脅し。能員は「わしも頼朝のやり方はどうかと思っておったのだ。力になりましょう」と寝返った。謀反の気配はなかったと報告するため、御所に帰される能員に、岡崎義実(たかお鷹)は「念のため、下に鎧でも着込んでおいた方がいいぜ」と笑った。

 能員は御所に戻り、義時らに「う~ん、殺気だった様子はなかったかな」などと三浦館の様子を伝えたが、着物の下からは鎧の音。安達盛長(野添義弘)に「何の音じゃ」、大江広元(栗原英雄)に「比企殿は衣の下に何か着けておられるご様子」と察知されると「今日は冷えるでな。そういえば、土肥殿がいなかった」などと言い繕った。

 約4カ月という“ロングパス”の伏線。佐藤は「伏線と言っていいのか分かりませんけど、三谷さんは本当に全体のことを考え尽くしているんだなと、最後にも実感しました」と最初に脚本を読んだ時の驚きを明かした。

 前回第30回(8月7日)、所領の再分配をめぐり、能員は頼家と対立。実衣(宮澤エマ)を盾に、阿野全成(新納慎也)を焚きつけた。全成が頼家呪詛に手を染めたことが発覚したものの、能員は知らん顔をし「これは、もはや謀反」。八田知家(市原隼人)が全成を斬首した。打倒比企を決意した義時に詰問され、善児(梶原善)と挟み撃ちに遭った能員だが、頼家が病に倒れる悪運の強さを発揮。佐藤のヒールぶりがSNS上で大反響を呼んだ。

 「もちろん、どの回も全部大事なんですけど、正直に言うと、実は第30回で比企能員としての肝の部分は終わったと思っていたんです。それが、いざ最期のシーンのリハーサルに行ってみると、小栗や彌十さん(佐藤の呼び方)、演出の保坂(慶太)監督が色々と提案してくれて。周りに引っ張り上げてもらいました。その感覚というのは、この仕事をしていて間違いなく楽しいことの1つなので、非常に印象深く、思い出に残るシーンになりました」

 例えば、時政が「その思い切りの悪さが、わしらの命運を分けたんじゃ。北条は(頼朝の)挙兵に加わり、比企は二の足を踏んだ」と扇子で能員のアゴを上げたのは彌十郎のアイデア。その後、時政が能員の頬を張ったが「顔を叩いた方が屈辱的じゃないですか」は三浦義村役・山本耕史が提案した。

 保坂監督は、能員が仁田忠常(ティモンディ高岸宏行)に斬られた後、油断を誘って逃げる演出プランを提案。「そのパスをもらったので、僕は何か言おうと思って、忠常に斬りつけられた後、『斬りやがった』と『痛い』という2つのワードを考えました。鎧を着込んでいるので本当は痛くないんだけど、それを言うことで、時政たちが『何?』となって隙が生まれた瞬間に逃げるというね。その僕が出したパスに対して、今度は時代考証の先生が、例えば『いってぇ』ならOKなのかとか、この時代におかしくない『痛い』の言い方を探ってくださって。(制作統括の)清水(拓哉)チーフ・プロデューサーも『“いったぁ”はどうですかね』と。みんなのアイデアのおかげで『斬りおった』と『いったぁ』の2つのワードで逃げる隙を作る形になりました」。創造力あふれる現場に感謝した。

 「北条は策を選ばぬだけのこと。そのおぞましい悪名は、永劫消えまいぞ」と言い残した能員。2代執権の道を進む義時&撮影終盤に向かう小栗へのメッセージを最後に尋ねた。

 能員と義時が対峙したこのシーン。「最初に小栗をにらむ僕の顔を撮り、次にカメラが小栗の方を向いて、小栗のリアクションを撮る。その時、カメラマンさんの背中が2人の間に入ってしまって、僕と小栗の視線が合わなくなったんです。でも、僕としては、僕のにらんだ顔を見て、小栗にリアクションしてもらいたい。だから、僕が首を横にズラして、小栗と視線が合うようにしたんです。このシーンの撮影が終わって、視線が合わなくなったことを僕が笑い話にした瞬間、小栗は僕が首を横にズラして一生懸命パスを渡そうとしていたことを当然分かっていて『ありがとうございました』って笑って言ったんです。普段は『おい、二朗』とか呼び捨てなのに(笑)、俳優同士の芝居の受け渡しなどには実に敏感で、実に誠実なんですよね。もうズルい(笑)。好きになっちゃいますよね(笑)」

 小栗とは03年7月期のTBS「Stand Up!!」で「初めて会ったと記憶しています」という約20年来の旧知の仲。映画「銀魂」シリーズ(17、18年公開)などでも共演した。

 「この『ありがとうございました』の一言に象徴されていて、彼はちょっと尖って見える部分もあるかもしれないけど、いつも現場全体のことを考えていて、みんながやりやすい空気をつくってくれる座長。自分がパスを出すタイミングも、先輩や後輩から渡されるパスも全部ちゃんと分かっていますよね。僕が言うのも偉そうですけど(笑)。だから、今の調子のまま、最後まで駆け抜けてほしいと思います。全員の無事の完走を祈っています」

続きを表示

この記事のフォト

2022年8月14日のニュース