【内田雅也の追球】阪神の強さ垣間見たけん制球 楽天の盗塁サインを解読していた

[ 2023年6月9日 08:00 ]

交流戦   阪神4―6楽天 ( 2023年6月8日    楽天モバイル )

<楽・神>3回、一塁にけん制球を投げる伊藤将(撮影・北條 貴史)
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 試合の流れを読んでいれば、苦しいながらも湯浅京己が踏ん張り、阪神が1点差で逃げ切るとみていた。7、8回表の4点は相手失策や記録に表れない拙守が絡んだものばかり。相手投手の自責点はゼロだった。

 僅差で終盤を迎えれば競り勝つ。相手が勝手に転んでくれる。接戦では負けない。そんな強さを思い浮かべていた。

 「そんなの、甘いわ」と監督・岡田彰布は吐き捨てるように言った。球威がなく、制球も乱れた湯浅は連続四球から逆転サヨナラ3ランを浴びて敗れた。現状ではクローザーから配置転換して再起をはかることになる。傷心をいやし、どん底からの復活を待ちたい。

 敗れた試合後で気がひけるが、阪神の強さを物語るプレーがあったので書いておきたい。

 それは楽天のサインを解読していたのではないかということだ。少なくともジスボール(次の投球)で走れの盗塁は読めていたとみる。

 3回裏2死一塁、打者・岡島豪郎の2ボール―2ストライク、5球目を投げる前、伊藤将司が一塁にけん制球を放ったのだ。一塁走者は浅村栄斗で今季は1盗塁。リードもごく小さかった。盗塁を警戒する場面ではなかった。恐らくベンチからの指示だろう。

 果たして、5球目を投げると、本当に浅村はスタートを切った。岡島が打って投ゴロで、盗塁は幻に終わったが、確かに読んでいたのである。

 岡田がオリックス監督時代、阪神との交流戦で同じけん制球があった。2012年5月22日の京セラドーム。阪神はめったに走らない新井貴浩に二盗させ憤死した。直前に金子千尋がそれまでなかったけん制偽投を入れていた。当欄で盗塁のサインを解読されていたと感じたままに書いた。翌日、岡田から「書くと阪神がサインを換えるやないか」と抗議を受けた。半ば解読を認めていた。

 サイン解読はスコアラーやコーチ陣など裏方を含めての地道な作業からなる。岡田は著書『オリの中の虎』(ベースボール・マガジン社新書)で実際の盗塁阻止以上に<裏で支えてくれる人を含めて、選手もみんなが相手を呑(の)んでかかるようになる>と精神的効果を説いていた。

 あの1つのけん制球で全員が一丸となって戦っている姿が目に浮かぶ。首位を快走する今の強さを垣間見た気がしている。=敬称略=(編集委員)

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