【内田雅也の追球】難しい「みごとな負け」 野球の神様は「負けから学べ」と言う

[ 2023年4月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―3広島 ( 2023年4月6日    マツダ )

<広・神>中断中、ベンチで厳しい表情を見せる岡田監督(左)(撮影・成瀬 徹)
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 公式戦が開幕してから1週間、阪神監督・岡田彰布は「いかに負けるか」を頭に描いて過ごしていた。開幕4連勝に1雨、無敗でここまで来たが「いずれ負けるからな」と話していた。

 <プロ野球は、負けることが許されるスポーツである>と作家・重松清が書いている=『うちのパパが言うことには』(角川文庫)=。

 壮大なトーナメント戦を戦う高校野球や、先のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝ラウンドのように、負けたら終わりという、明日なき戦いではない。

 ファンは<どんなに強いチームを贔屓(ひいき)にしていても、三試合に一試合は「負け」を受け容(い)れなければならない>。現場をあずかる監督ならばなおさらで、大きなテーマである。

 その敗戦の時が来た。試合前から降ったりやんだりの天候で試合中は幾度も雨脚が強まった。6回表先頭、佐藤輝明の打席で中断、そのまま降雨コールドとなった。0―3の完封負けである。

 阪神打線は広島先発・遠藤淳志に毎回走者を出しながら5回まで無得点に終わった。シェルドン・ノイジー、大山悠輔、佐藤輝の主軸に1本出ていれば、違った展開になったろう。

 重松は<勝敗が日常の一部になる。勝てば喜び、負ければ悔しがる。ごくあたりまえの感情の起伏が、シーズン中、あざなえる縄のごとく繰り返される>と書いたうえで敗戦のあり方を考察している。<みごとに勝つことと、みごとに負けることとでは、明らかに後者の方が難しい>。

 この敗戦はどうだったのだろう。敗戦後、岡田は「全部勝つわけにいかんからな」と自分に言い聞かせるように話した。ただ、バスに乗り込む直前、雨空を見上げて「もっと、ええ天気でなあ」と恨み言を漏らした。「しっかりやって負けたんなら、それでええけど」

 9回まで戦っていれば逆転できたかもしれないと悔やんでいるわけだ。雨に敗れたような降雨コールドが悔しいのだ。

 「みごとな負け」はやはり難しかったのだ。野球の神様は「負けから学べ」と言う。そして負けを引きずっていてもいけない。プロ野球は負けても明日がある。

 きょう7日、本拠地・甲子園球場で開幕戦を迎える。前売り券は完売。超満員の観衆のなか「みごとな勝ち」を目指すことになる。=敬称略=(編集委員)

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2023年4月7日のニュース