【内田雅也の追球】胸に手をあて、自らに問う 引いた気持ちになっていないか?

[ 2022年3月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-8広島 ( 2022年3月30日    マツダ )

<広・神>6回2死一、三塁、末包のゴロを後逸して適時失策を犯した中野(撮影・大森 寛明)
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 阪神が逆転を許した6回裏、残念な守備が相次いだ。

 1―0とリードの2死一、二塁。一塁ほぼ正面のゴロをジェフリー・マルテがミットに当て弾き、同点を許した。さばいていれば無失点だった。

 確かに強いゴロで、記録は強襲安打だが、あの打球は止められた。昔の日本野球ならば「体に当てて止めろ」だ。そんなことは書かないが、プロならば体を逃がし、ボールとの距離をうまく取って、さばきたい。相手の菊池涼介が直後に見せた身のこなしである。

 この後、適時打で逆転を許し、遊ゴロを中野拓夢が後逸(失策)して3点目を失った。股間を抜けるトンネルだった。

 いずれのミスも打球に対して身が引けていた。消極的な心を映しだしているかのようだ。開幕から連敗が続き、気持ちが引けてはいないか。

 7回裏には右中間飛球を近本光司、佐藤輝明がお見合いして安打にしていた。27日ヤクルト戦(京セラ)でもゆずり合ってのランニング本塁打があった。ぶつかってでも捕りにいく姿勢こそ、求められている。

 現役時代「牛若丸」と呼ばれた華麗な遊撃守備を知られた吉田義男は監督となり「守っていても攻めろ」が口癖だった。日本一となった1985(昭和60)年、夏の長期ロードで連敗があり、一時3位に転落した。甲子園に帰る前のコーチ会議で、コーチ陣に確認した。自身がつけていたノートに記されている。以下の3項目だった。

 (1)全員が一つの気持ちになっているか。
 (2)攻めまくる気持ちを失っていないか。
 (3)引く(消極的な)守りになっていないか。

 直話で聞いたが、著書『海を渡った牛若丸』(ベースボール・マガジン社)にも記されている。

 いま、阪神の監督、コーチ、選手は胸に手をあて、自らに問うべきだ。引いた気持ちになっていないか? 掲げた「超積極的」を思い返したい。

 開幕5連敗から逆転優勝した2008年の巨人。監督・原辰徳が5連敗後に話したのは「全員で勝ちにいく」だった。吉田の言う「一丸」に通じる。人間的な野球だ。技術は新しくなろうとも精神は変わらない。やはり歴史に学びたい。

 もう勝てないのでは……と恐怖と絶望に襲われる夜に記しておきたい。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年3月31日のニュース