MLB労使交渉 泥沼化の背景は?今後への影響は?スポニチ記者&米記者が分析

[ 2022年3月12日 02:30 ]

ロブ・マンフレッド・コミッショナー(AP)
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 「金持ち同士のけんか」「百万長者と億万長者の争い」などと揶揄(やゆ)される大リーグの労使交渉で、今回泥沼化した背景、そして今後への影響は――。スポニチ本紙の奥田秀樹通信員(59)と、米スポーツサイト「ジ・アスレチック」の看板記者ケン・ローゼンタール氏(59)が分析した。

 ≪奥田秀樹通信員 コミッショナーが見るべきものは?≫野球はお金持ちのオーナーをさらにもうけさせるためにあるのではない。野球に人生を懸ける選手たちに夢のある活躍の場を用意し、ファンに娯楽を提供する場だ。

 今回の労使交渉で、最高責任者であるロブ・マンフレッド・コミッショナーは30人のオーナーたちの顔色ばかりうかがっているように感じ、長期化の一因となった。確かに、仕方ない部分はある。彼を雇っているのはオーナーたち。彼は46年ぶりに複数の候補者の中から投票で選ばれたコミッショナーで、立場は必ずしも強くはない。

 マンフレッド氏は前任者バド・セリグ氏の右腕として、実務で辣腕(らつわん)ぶりを発揮。しかし、14年の8月に選任される際には、オーナー会議で6度の投票を要した。必要な75%以上の得票(23票)に届かなかったからだ。18年11月に再選され、24年まで任期が続くが、安泰とは言えない。92年9月にはフェイ・ビンセント・コミッショナーが「選手側に近すぎる」との理由でオーナー陣の不信任票が可決され、5年の任期を全うできなかった。

 オーナー陣は資金豊富な球団と低予算の球団で立場も意見も大きく異なる。マンフレッド氏が75%以上の得票を得ようと思えば、多数派を占める中規模の球団と低予算のオーナーの顔色をよりうかがうことになる。今回もそうだった。球団の出費を抑えるようにして、選手会が不満を募らせるという構図だ。

 あるニューヨークのベテラン記者は「マンフレッドは野球ファンに人気がない」とバッサリ。地位の安泰を狙うのではなく、もっと選手やファンに向き合うべきである。

 ≪ケン・ローゼンタール記者 人気低下を避けた“全試合開催”≫9日は国際ドラフトがネックになり、激しく衝突したようだが、交渉を決裂させるほどのものではなかった。昨夜、機構側が2カード中止を発表したのは早期解決に向けた選手会への「プレッシャー戦術」だったと思う。

 ロックアウトの99日間は、野球界全体にとって恥ずかしいことだった。良いニュースがあるとすれば、一試合も失わずに済みそうなこと。少なくとも(この協定が有効な)5年間は労使面で平和がもたらされる。

 今回の労使交渉で、勝者がいるかどうかは分からない。経済的なシステムはほとんど変わっていないという意味で、オーナー陣が勝ったと考えられるかもしれない。根本の構造的な部分は元来、オーナーに有利なように定まっている。ただ、選手会はぜいたく税の基準額、最低年俸などの増額を勝ち取り、ボーナスプールといった新システムも獲得。サービスタイム(登録日数)操作やタンキング(ドラフト上位指名権確保のためわざと負ける戦略)の防止策にも一定の成果があり、選手会側にとっても悪くない結果ではある。

 今回のロックアウトが人気低下を招くとは思わない。例えば1カ月とか、多くの試合を失っていたら、大リーグはばく大なダメージを受けていただろう。これからFA補強戦線が始まり、シーズンが開幕して、ファンの強い関心を引きつけるはず。試合を中止せずに済んだのは大きかった。

 ただ、新しいファン層を開拓するためには、より良いものを見せていく必要がある。ようやく労使の平和が訪れ、今後は双方が協力し合ってほしい。

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2022年3月12日のニュース