MLB新労使協定合意の内幕 選手会誇る“鉄の結束”に温度差 役員決定を30球団代表覆し機構最終案賛成

[ 2022年3月12日 02:30 ]

新労使協定での主な合意事項と双方の損得
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 大リーグはさらなる開幕延期と試合数削減という最悪の事態を免れた。その裏には、過去の労使交渉の歴史を覆すような選手たちの決断があった。

 この日、機構側が新たな回答期限に設定したのは、米東部時間午後3時。その直前、交渉のテーブルに着く選手会の執行役員8人は全会一致で「NO」の結論を下していた。その上で、選手会としての最終回答を30球団の代表に投票で求めた。3分の2(20球団)以上の同意が必要だったが、同調したのはヤンキース、メッツ、アストロズ、カージナルスの4球団のみ。26球団は機構側の最終案を受け入れると返答した。この結果を受け、選手会は賛成に転じ、労使交渉合意への道が一気に開けた。大リーグ専門局「MLBネットワーク」の敏腕記者ジョン・ヘイマン氏は「執行役員と異なる結論を下すのは普通はないこと」とツイートした。

 選手会は待遇改善を求め、「鉄の結束」で機構と闘ってきた。今月1日の最初の回答期限では30球団全てが「NO」を突きつけ、開幕が延期となった。しかし、今回は最低年俸やぜいたく税などで機構から一定の譲歩を引き出したことで、これ以上の長期戦は94~95年のストライキのように野球離れにつながると不安を抱く選手が多かった。

 徹底抗戦の構えを見せた執行役員8人は年俸30億円を超えるシャーザー(メッツ)、コール(ヤンキース)ら。反対した4球団も高額年俸選手を多く抱えていた。むしろ、多くの中堅・若手選手はデメリットが大きいと思ったようだ。労使交渉合意を受け、コールは「今回は極めて民主的な手続きを踏んだ。約1200人の選手の意見が反映された」とコメントした。99日間に及んだロックアウト。「世界最強の労働組合」と言われる大リーグ選手会だが、ファン離れの危機を救ったのは「早く野球をしたい」との選手の切実な声だった。

 ▽大リーグ選手会 1965年発足で、初代代表は自動車や鉄鋼関連の労働組合のエコノミストだったマービン・ミラー氏。長年、オーナーが絶対的な権力を保有していたが、選手の地位向上や待遇改善を求め、68年の第1回労使交渉で初めて最低年俸が定められた。その後も68年に年金制度、73年に年俸調停制度、76年にFA制度など、次々に権利を勝ち取ってきた。選手会は過去にストライキを5度決行。94~95年はプロスポーツ史上最長の232日間に及んだ。

 ≪“若手のために”総額5000万ドル分配「ボーナスプール」≫「ボーナスプール」は年俸が抑えられる調停権取得前の選手のために新設された。総額5000万ドル(約58億5000万円)を個人成績、サイ・ヤング賞などに基づき、上位100選手に分配する。選手によっては従来の給料から3倍以上はね上がるケースもある。同じく新設の「ドラフト抽選制」はポストシーズンに出場できなかった下位18球団が対象。全体1~6位の指名権を抽選で決める。従来のウエーバー制のもとでは、全体1位の指名権を求めてわざと負ける球団の戦略が指摘されていた。

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2022年3月12日のニュース