【内田雅也の追球】静かな球場での「叫び」 

[ 2021年2月3日 08:00 ]

声を出しながら、投球練習する阪神・秋山(撮影・成瀬 徹) 
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 無観客での開催となった昨年開幕前の練習試合、そして開幕当初の公式戦で驚いたのは阪神・秋山拓巳が投球リリース時に出す声の大きさだった。「ふんっ」「よーっ」……などの声が記者席まで届いてきた。

 制球よくコーナーを巧みに突く投球スタイルでいわゆる力投型ではないとみていた秋山から漏れる声には迫力があった。一球一球に魂を込めるかのような声である。

 今キャンプも無観客である。残念で寂しいことだが、だからこそ球音や選手たちの声を聞けるという楽しみもある。

 沖縄・宜野座のブルペンに2日続けて入った秋山はやはり声を出していた。試合とは異なり、控えめだったが「よっ」「うっ」と聞こえてきた。

 力を入れる時、瞬間的に声を出すと、より高い力が発揮される。「シャウト(またはシャウティング)効果」という。
 ハンマー投げの室伏広治が大声を発し、テニスの大坂なおみがポイントを奪って叫ぶ。

 精神科医・作家の樺沢紫苑が<大きな声を出して叫ぶことで脳に刺激が与えられ、その刺激が副腎に伝わり、アドレナリンが分泌されます。(中略)筋力が瞬間的に5~7%アップするといいます>と著書『いい緊張は能力を2倍にする』(文響社)と書いている。

 声を出して打つ打者もいるだろうか。柳田悠岐(ソフトバンク)が「ウッ」や時に「ガーッ」と声を出しながらスイングするのは有名だ。

 ただ、先の例で言えば大坂の場合は室伏とは効果が違っている。<アドレナリンは筋力を高めるだけでなく(中略)集中力を高め、瞬間的な判断力を高めて頭脳明晰(めいせき)にする物質です>。さらに<テンションを上げる。最も簡単な方法を一つあげるとすれば、それは「大声を出す」こと>。俗にいう「気合を入れる」である。

 秋山同様に1日キャプテンだった中谷将大がキャッチボール前、円陣の中心で叫んでいた。「若い選手が多いんで、元気はつらつでいきましょう!」「オーー!」駆け足で散っていった。
 昨年から日常生活ではマスクが欠かせなくなった。それは選手たちも同じだが、プレー中は外している。野球では事前準備や注意喚起などの声に加え、大きな声で叫ぶこともパフォーマンス向上に欠かせない。静かな球場に響く叫び声には思いがこもっている。 =敬称略=
 (編集委員)

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2021年2月3日のニュース