最期までメガホン 大林宣彦さん、寝てても「カ~ット!」 新作公開予定日に力尽く…

[ 2020年4月12日 05:30 ]

2018年1月、スポニチ本紙インタビューで妻・恭子さんと笑顔を見せる大林宣彦監督
Photo By スポニチ

 「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道三部作などで知られる映画監督の大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)さんが10日午後7時23分、肺がんのため都内の自宅で死去した。82歳。広島県出身。通夜・告別式は家族葬で営み、後日お別れの会を行う。2016年に余命宣告を受けながら執念で映画作りを続けた。10日は新型コロナウイルスの感染拡大で延期された新作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」の当初の公開日。「しようがないね」とつぶやきながら「あと1本は撮りたい」となお意欲を見せていたという。

 CMの世界から映画界入りし、自らを「映像作家」と呼んだ大林監督が静かに逝った。斬新な表現で観客の目を楽しませ続けた映像のマジシャンで、多くの後輩監督や俳優から慕われた巨匠だった。

 昨年11月24日、広島国際映画祭に車椅子で参加したのが最後の公の場となった。関係者によると、1カ月ほど前から自宅で療養。新型コロナの影響で大学病院にも行けず、近所の病院医師の往診を受けていた。息を引き取った10日昼には自宅の窓から見える八重桜に目をやり「桜がきれいだね」と恭子夫人と穏やかに会話も交わしていたという。

 前作「花筐/HANAGATAMI」撮影前の16年8月、ステージ4の肺がんで医師から「余命3カ月」と宣告されたが、抗がん剤治療を受けながらメガホンを取り、17年の毎日映画コンクールで日本映画大賞を受賞。間髪入れず、戦争と広島の原爆をテーマにした「海辺の映画館」に着手し、「“僕が死ぬと君も死んでしまうんだよ”とがん細胞に言い聞かせながら共生している」と、命を削りながら完成させた。

 悲報が流れて一夜明けた11日、世田谷区の自宅には関係者が弔問。「海辺の映画館」で製作総指揮を執った奥山和由氏(65)は「スッキリしたお顔で口元はほほ笑んでいます」と語った。このところ寝ていても映画を撮っている夢をよく見ていたようで、「よーいスタート!カット!みんなありがとう」とうわごとのようにつぶやいていたという。公開延期は10日に恭子夫人が伝えたそうで、「しようがないね」と受け入れていたそうだ。

 新型コロナの影響でちゅうちょする関係者も少なくなかったが午後3時すぎには「その日のまえに」(08年)に主演したお笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」の南原清隆(55)が沈痛な面持ちで弔問。関係者は「こんな時だけど、どうしても来たかったと話していました。気持ちを伝えたかったのでしょう」と思いを代弁。30分後に家を後にした。午後7時前には「野のなななのか」(14年)などに出演した山崎紘菜(25)が弔問。山田洋次監督(88)や富田靖子(51)、柴山智加(47)、石田ひかり(47)からは生花が届いた。

 「あと1本はしっかり撮りたい」と恭子夫人に話していたという大林監督。次は天国で観客を楽しませる。

 ◆大林 宣彦(おおばやし・のぶひこ)1938年(昭13)1月9日生まれ、広島県出身。CMディレクターを経て77年「HOUSE」で商業映画監督デビュー。その後「ねらわれた学園」「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」などを発表。92年「青春デンデケデケデケ」で日本アカデミー賞優秀監督賞。98年「SADA 戯作・阿部定の生涯」でベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。2004年に紫綬褒章、09年に旭日小綬章を受章。

続きを表示

2020年4月12日のニュース