大林宣彦さん「3000年は生きますよ」から半年も経たず…早すぎます、寂しいです

[ 2020年4月12日 06:00 ]

大林宣彦さん悼む

大林宣彦監督

 メガネの奥の細い目を、さらに細めた柔和な笑顔の印象しか残っていない。

 記者として駆け出しの頃、「あした」のロケを取材した。大林さんは常に穏やかな語り口で、怒号が飛び交うこともない。瀬戸内の風光明媚(めいび)なロケーションもあって、それまで体験してきた現場のけん騒とは程遠く、映画撮影とはなんと優雅なものか。と映像の魔術師、ファンタジーの巨匠と呼ばれる片りんを感じられたことが強く記憶に残っている。

 昨秋、久しぶりにインタビューをする機会があった。闘病のため車いすに乗り体はかなり小さくなった印象だったが、冗舌ぶりは衰え知らず。予定された倍の1時間20分で質問は4つにとどまったが、時折、恭子夫人にちょっとしたわがままを言うほほ笑ましい光景も見られた。

 その際も反戦、反原発へのメッセージは色濃かったが、一方で「過去は変えられないが、映画で未来を変えることができる」との信念を強調していた。自身の作品を子供たちに見せる上映会も開催しており、その子供たちからの“ファンレター”が届くことをとても喜んでいた。「“大林のおじいちゃん、戦争のことを教えてください”と言うんです。これは、僕たちはこれから友情も生まれ好きな人もできるだろうし、僕たちの子供や孫、さらに先の人類の未来を任されたのだから、それをやり遂げるためにぜひ知りたいということ。これは映画人として、とてもありがたい」。がんと仲良くすることを心掛け、「宿主を大切にしろよ。俺が死んだらおまえさんも死ぬんだぞ」と言い聞かせながら治療を続けてきた大林さん。「やっていないことがいっぱいある。これから3000年は生きますよ」と宣言したのが昨年11月の東京国際映画祭。それからまだ半年もたっていません。早すぎます、寂しいです。(映画担当・鈴木元)

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2020年4月12日のニュース