大林宣彦さん「頭の中にもがん転移」それでも見せた新作への意欲

[ 2020年4月12日 06:00 ]

大林宣彦さん悼む

大林宣彦監督

 学生時代、所属していた映画サークルが「HOUSE」の上映会を開催した。40年も前の話だが、これが大林監督との最初の出会いだった。CMの世界で活躍していた監督にとって、これが商業映画の第1弾。「屋敷が人間を食らう」という奇抜な発想と斬新な映像が新鮮で、新しい時代の到来を予感させた。

 撮影所育ちでなくとも、映画監督になれる道を切り開いたパイオニアだ。スポニチに入社して映画担当の記者となり、折につけコメントを頂戴したが、いつもその言葉の一つ一つが心にしみてきた。

 「医師だった父は、本当は世の中から医者なんかいなくなればいい。みんなが健康であれば必要ないのだから。そんな日が来るまで僕たち医師が頑張るんだよと話していた」そして「映画も同じ。ハッピーエンドっていうのは、世の中がハッピーじゃないから作られるんです。映像作りに最も大切なのはフィロソフィー(哲学)」との言葉をありがたく拝聴した日々が懐かしい。

 反戦への思いも強かった。右傾化が取り沙汰される昨今の日本を危惧し「戦争を知っている僕たちが訴え続けなければいけない」と熱弁。故高畑勲さんや山田洋次監督と手を携えて平和の尊さを力説してきた。

 インタビューをお願いすると、時に3時間にも及んだ。「花筐/HANAGATAMI」が17年の毎日映画コンクール日本映画大賞を受賞。報告を兼ねて自宅にお邪魔したのが、じっくり話を聞いた最後になった。「実は頭の中にもがんが転移してるんです」と帽子を取って説明された時にはどんな顔をすればいいのか戸惑ったが、新作への意欲はみなぎっていた。その際、記念に妻でプロデューサーの恭子さんとの2ショット写真も撮影したが、照れくさそうな顔が忘れられない。まるで学校の先生のような存在。理路整然とした話の中にいつも真理があったように思う。あの柔和な笑顔がもう見られないと思うと寂しい。(特別編集委員・佐藤 雅昭)

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2020年4月12日のニュース