祝!阪神・前川のプロ初安打 成長の裏にある大音量でかき消した悲痛な叫び 苦しんだリハビリの日々

[ 2023年6月7日 07:00 ]

交流戦   阪神1-4楽天 ( 2023年6月6日    楽天モバイル )

<楽・神>7回、右安打を放つ前川(撮影・岸 良祐)
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 阪神・前川右京外野手(20)が6日、楽天戦でプロ初安打となる右前打を放った。2点劣勢の7回無死からの第3打席、プロ通算11打席目で記録した待望の一打。チームは惜敗を喫して引き分けを挟み連勝は2でストップした。きょう7日は日米通算193勝を誇る田中将が相手。プロ野球人生の第一歩を踏み出した若虎が持ち前のフルスイングでマー君撃ちに挑む。

 一、二塁間を鋭く抜けた打球を確認すると、前川の表情が少しだけ緩んだ。苦しみ抜いて、つかんだ待望の初安打。試合後、苦しかった胸の内を初めて明かした。

 「今まで打ててなかったので。初めの方は全然。自分のスイングというか、自分の間合いに入っていけなかった。ようやくです。長かったです…」

 7回無死からの3打席目に、その瞬間は訪れた。1ストライクから宋家豪(ソン・チャーホウ)が投じた外角寄りのチェンジアップを持ち前のフルスイングで捉えた。打球は痛烈な右前打。プロ通算11打席目にして飛び出した一打に「うれしかった」と吐露。しかし舞台裏ではもがいていた。

 智弁学園時代は通算37本塁打を誇り21年ドラフト4位で入団した。歴代の首脳陣たちがシュアな打撃とスイングスピードにほれ込んだ。矢野前監督は1年目からオープン戦で抜てき。今季は岡田監督も当初は開幕「右翼」のレギュラー候補に挙げるほど期待していた逸材だ。ただ、たび重なるケガに苦しんだ。

 昨季は序盤に上半身のコンディション不良を発症。シーズンの大半を棒に振った。長く険しいリハビリを強いられ、周囲に「あかんわ…」と漏らすほどメンタルはどん底。そんな時、決まって向かう場所があった。

 「どうにか心を紛らわせていました」

 夜10時。鳴尾浜の虎風荘に隣接する「ウエートルーム」が唯一のストレス発散の場所だった。「本当にメンタルがやばかった」。誰もいない一人の空間。満足に野球ができない悔しさ。自分へのふがいなさ…。誰にも言えない悲痛な叫びをかき消すため、スピーカーを大音量にして洋楽を流していた。今春も、1軍のキャンプイン直前に左上肢のコンディション不良で離脱。それでも、2度目はめげなかった。孤独なリハビリと向き合い2軍で打率・360(100打数36安打)2本塁打、15打点。打ちまくって、実力で1軍昇格をつかんだ。

 この夜、プロ野球選手として、確かな第一歩を踏み出した。きょう7日は日米通算193勝を誇る田中将と対峙(たいじ)する。「しっかりチャンスがあれば、準備して結果を残せるように」。初安打の余韻に少し浸った若虎は、気持ちをすぐに切り替えた。 (石崎 祥平)

 ◇前川 右京(まえがわ・うきょう)2003年(平15)5月18日生まれ、三重県出身の20歳。智弁学園では1年夏、2年の交流試合、3年春夏に甲子園出場し、3年夏は準優勝。21年ドラフト4位で阪神入り。今季5月30日に1軍初昇格し、同日の西武戦に「6番DH」でプロ初出場。1メートル76、86キロ。左投げ左打ち。

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