100本ノックを打ってもらったのは最高の思い出 今までにない監督像で獅子軍団率いた辻監督

[ 2022年10月29日 07:45 ]

CSファーストステージで敗退し、ファンへあいさつした際の辻氏
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 CSファーストステージでソフトバンクに敗れた西武は、辻発彦監督の勇退を発表。6年間にわたる旅路が終わった。指揮官は幼少期から熱心なライオンズファンだった。当時、西鉄ライオンズが本拠を構えていたのが、福岡の平和台球場。佐賀の実家から父に連れられて、何度も足を運んだ地に、ほど近いペイペイドームで終戦を迎えたのも運命的なものを感じる。

 「“十勝無敗”という焼酎を飲みましたけどダメでした」

 辻監督は北海道の知人から送られてきた焼酎「十勝無敗」を飲んで短期決戦に臨んだという。就任2年目だった18年の開幕前日。札幌の飲食店で開かれた我々報道陣との決起集会の際に皆で飲み干した思い出の酒だ。当時の担当記者数名から「十勝無敗懐かしいね」と連絡があり、感慨に浸った。同年は「十勝無敗」とはいかなかったが、開幕8連勝のロケットスタート。4月10日のロッテ戦で連勝は止まったが、本拠地連勝は12まで伸び、ついに一度も首位を譲らず、10年ぶりのリーグ優勝を果たした。そのゲンをかついだのだ。

 現役時代には広岡、森、野村。引退後も落合監督のもとで、コーチを務めるなど、多くの名将に仕えてきた。その上で自身の監督生活を振り返り「辻は辻でしかありませんでした」と総括した。本人は自虐的な意味で言ったのかもしれないが「辻は辻」。その言葉に異論はない6年間だったように思う。

 17年6月11日のDeNA戦。1点差の9回に守護神の増田がピンチを招くと、就任後初めてマウンドへ。「一度マウンドに来てみたかったんだ」と笑顔で声をかけ、白星をつかんだ。リーグ連覇を果たした19年にはムードメーカーの熊代が辻監督のお面をかぶって士気を高め、今季は試合前の監督紹介で山田らが辻監督をもり立てる「劇団獅子」が話題に。今季、最優秀中継ぎ投手に輝いた水上からは「監督頑張りましょうね」と声を掛けられるなど、今までにない監督像だった。記者も前職時代、17年の春季キャンプ前に「練習を体験させていただきたくて…」と打ち明けると「そうなの?じゃあ、俺がノックを打ってやるよ」とまさかの返答。100本ノックを打ってもらったのは最高の思い出だ。

 通算4年3カ月の担当歴の中で2度の胴上げ、CS敗退での涙。様々な姿を見てきた。退任後、64歳の誕生日だった24日にはツイッターを開設。早くもフォロワーは10万人を超えた。好評だった日本シリーズでの解説中には「ウチの選手たちも連れて行ってあげたかった」と本音をこぼした。グラウンド外での活躍もうれしいが、願わくばもう一度ユニホームを着て、日本一の胴上げを見せてほしい。それが記者の心残りでもある。(記者コラム・花里 雄太)

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2022年10月29日のニュース