ラグビー日本代表PR稲垣が“まいた種”地元新潟に根付くことを願う

[ 2019年9月8日 09:00 ]

7月下旬ごろの新潟工グラウンドの芝の育成状況。部員は苗をチェックする
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 7月下旬、ラグビー日本代表プロップの稲垣啓太(パナソニック)の高校時代の恩師である樋口猛監督を、新潟工業高に訪ねた。取材を終え「グラウンドを見せて下さい」とお願いした。稲垣が後輩のためにと300万円もの自腹を切り、グラウンドを芝生化したことが話題になっていた。

 当時はまだ、30センチ間隔ほどで整然と植えられた芝の苗よりも、表層の土が目立っていた。練習を終えた部員が腰をかがめ、苗を一つ一つチェック。小さな雑草を丁寧に取り除いているところだった。フルサイズのピッチに張り巡らされた苗を管理するのは、なかなか大変なこと。だが樋口監督は「自分たちでやるから、愛情が湧くんですよ」と話し、目尻を下げた。

 この天然芝化計画、実は見切り発車だったという。新潟では昨年度まで15季連続43度の花園出場を果たしている新潟工だが、近年は部員集めに苦労。県内の私立校が人工芝のラグビーグラウンドを新設したこともきっかけとなり、以前からピッチサイドで芝生化実験を重ねていた樋口監督はゴーサインを出した。方々に働きかけ、資金面のめども付いたところで「後輩のために何かしてあげたい」と言っていた稲垣に声を掛けると、二つ返事で寄付に応じてくれたという。

 300万円と言ってもグラウンド全面の天然芝化と考えれば、決して潤沢とは言えない。そのためホームセンターで購入した芝をバラバラにほぐし、一つ一つを農業用ポッドで育てるところからスタートしたという。5月には同校を訪れた稲垣も、現役部員やその保護者、OBらと一緒に苗作り。7月初旬の“田植え”作業も人件費ゼロの人海戦術でやりきったという。樋口監督は「稲垣が寄付してくれたことで、みんなが協力しやすくなった」と言う。その意味でも同校初のW杯戦士の存在感は大きかった。ちなみにグラウンドの傍らにある倉庫は、稲垣の父が建てたものという。

 日本協会は17年4月に策定した「日本ラグビー戦略計画2016―2020」の中で、19年のターゲットとして競技登録者数20万人を掲げている。16年3月時点で10万5693人だったものをほぼ倍増させる計画だから、並大抵のことではない。鍵は20日に開幕するW杯での日本代表の結果が握るのは明らかだが、もし15年大会のように火が付いた時、その受け皿があるのか。4年前はそれがなかった。

 稲垣の“男気”は直接的に10万人の競技者を倍増させる力はないかも知れないが、地元新潟で新たにラグビーを始めたいと願う子どもたちにとっては大きな受け皿になるだろう。そして母校のために、あるいは直接のつながりはなくても若い世代のためにと他の選手が続けば、次の時代の土台ができていく可能性がある。草の根が地中に広がり、青々とした葉を広げるように。

 稲垣がSNSで定期的に公開していたグラウンド写真は、回を追うごとに色濃い緑となっていった。8日には、W杯の壮行会を兼ねたグラウンド開きが行われる。(記者コラム・阿部 令)

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