乙武洋匡氏 幅跳び選手とコーラーの関係が共生社会のヒントに

[ 2021年8月28日 05:30 ]

女子走り幅跳びの高田千明選手と乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(4)】4メートル74の日本新記録で5位に入賞した陸上女子走り幅跳び・高田千明選手と初めて会ったのは、2017年にロンドンで開催された世界パラ陸上の時だった。待ち合わせ場所に現れた彼女に同行していたのがコーラーの大森盛一さん。コーラーとは、視覚障がいの選手に声や手拍子で踏み切りのタイミングを伝える、選手にとっては必要不可欠なパートナーだ。

 視覚情報が一切得られない中で、選手は全速力で走り、跳ぶ。それには勇気という言葉だけでは表しがたいほど恐怖心を克服することが必要になってくるが、その支えとなるのがコーラーの役割だ。日頃から息を合わせ、信頼関係を構築することで、選手は初めて全体重をかけて「ここだ」と踏み切ることが可能になる。

 障がい者を支えるパートナーと書くと、どうしてもかいがいしく世話をする福祉職のような存在をイメージする方も多いだろうが、大森さんは高田選手と程よい距離感で接しているように見えた。2人と一緒に食事をしたのだが、必要以上には手を貸さない。どうしてもできないことだけ、先回りして手助けする。サポートしてくれて10年以上になる私とマネジャーとの関係性とも近いものがあり、とても親近感を抱いたのを覚えている。

 パラリンピックには、これ以外にも健常者がアスリートに近い位置でサポートする競技がいくつもある。例えば視覚障がいの陸上では「絆」と呼ばれるロープでつながり並走する伴走者がいる。同じく視覚障がいの競泳では、選手にクッションのついた棒で叩いてターンのタイミングを知らせるタッパーがいる。ボッチャではランプと呼ばれる滑り台のような用具でボールを転がす選手もいるが、これも選手の指示を受けてランプの角度を調整する介助者がいる。

 いずれも障がいのある者とない者が信頼関係を築き、勝利を目指す過程に変わりはない。彼らの関係性は、私たちが目指す共生社会を実現する上で大きなヒントとなるはずだ。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年8月28日のニュース