渡辺名人 初挑戦奪取で3冠復帰 藤井新棋聖に敗れ1カ月“底力”3連勝

[ 2020年8月16日 05:30 ]

初の名人位を獲得した渡辺3冠は、笑顔で対局を振り返る
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 渡辺明王将(36)=棋王と2冠=が豊島将之名人(30)=竜王と2冠=に挑んだ第78期名人戦7番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催)第6局は15日、大阪・関西将棋会館で2日目が指し継がれ、渡辺が99手で勝って4勝2敗で初の名人に就いた。名人挑戦権を争うA級順位戦9期目での初挑戦を実らせ7月、藤井聡太七段(当時)に棋聖を奪われ、後退した2冠から1カ月で自己最多タイの3冠へ復帰した。

 
 渡辺の得意戦法、矢倉へ進んだ第6局は2日目早々、互いの陣形を削り合う消耗戦へ突入した。73手目、豊島の金銀3枚が利く敵陣中央へ放った「焦点の歩」。と金に成った12手後、形勢判断の針が渡辺へ傾きだした。

 不動駒だった飛車で相手銀と差し違え、その銀を敵陣に打ち込んで「詰めろ」。豊島が残り50分まで考えて投了を告げると、新名人誕生が確定した。

 「と金ができて見た目にはちょっとよさそうかなと思った」。勝負の分岐点をそう回想し、名人初奪取には「初挑戦だったので今まで意識することもなかった。実感はない」と淡々と語った。

 36歳3カ月での新名人は歴代4位の年長記録となる。49歳11カ月の故米長邦雄永世棋聖、42歳6カ月の加藤一二三・九段、39歳3カ月の故升田幸三実力制第4代名人に次ぐ。中学生棋士の渡辺は19歳で王座戦挑戦者になり、竜王戦11期は歴代最多。竜王と棋王の永世称号をすでに獲得しただけに、名人戦での存在感の薄さが「棋界の七不思議」とされた。

 名人戦につながる順位戦は5クラスに分かれ、A級を構成する10人が総当たりで挑戦権を争う。通算9期在籍したA級では3位以内が実に6期目。「自分には縁がないのかなと思っていた」。第76期で陥落を経験し第77期、B級1組で12戦全勝。A級復帰すると今期9戦全勝で7番勝負に初登場した。

 「あと何回、名人戦に出られるか考えるとそんなにチャンスはない。獲れるなら今回何とかしたい」

 1勝2敗で第3局を終えた7月16日、藤井に棋聖を奪われた。そこからの名人戦3連勝に底力が見える。ダブルタイトル戦の過密日程が奏功したそうで、「すぐ名人戦があったので、落ち込むようなことがなかった」。過去を振り返るのは名人戦後。そう覚悟を固め、豊島との戦いに集中した。

 年明けからの王将、棋王のダブルタイトル戦。コロナ禍による中断期間を経て、再び3冠に返り咲いた。台頭する後輩世代の足音を意識しつつ、「40歳を迎えたときにどれくらい持ちこたえられるようにするか、長期的に見て取り組んでいる」。しばしの休息を経ての再出発を誓った。

 ◆渡辺 明(わたなべ・あきら)1984年(昭59)4月23日生まれ、東京都出身の36歳。所司和晴七段門下。00年3月に四段昇段を決め、史上4人目の中学生棋士に。タイトル獲得通算26期(王将4期、名人1期、竜王11期、棋王8期、王座1期、棋聖1期)は歴代5位。趣味は競馬、フットサル、サッカー観戦。

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