【内田雅也の追球】堅実野球の「ギャンブル」控え選手を起用している場面で勝負に出た岡田監督

[ 2023年5月12日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―1ヤクルト ( 2023年5月11日    甲子園 )

<神・ヤ>8回、勝ち越しの生還を果たした小幡はナインとタッチ(撮影・大森 寛明)
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 決勝点はギャンブルでもぎ取った。1―1同点の8回裏1死二、三塁。三塁走者は代走で出ていた小幡竜平、打者は代打・糸原健斗。ヤクルト内野陣は「超」の付く前進守備を敷いていた。

 三塁走者への指示は「ギャンブル・スタート」。投球がバットに当たる瞬間に三塁走者がスタートを切る作戦である。

 3ボール―1ストライクからの外角速球を糸原は転がし、遊撃右へのゴロ。小幡は直線的に本塁へ突入し、ヘッドスライディングで左手を本塁の角に触れたのだった。

 「あそこはギャンブル」とヘッドコーチ・平田勝男は言った。そしてまず、小幡の走塁をたたえた。「コリジョンルールで捕手はブロックできない。だから間一髪の時は頭から突っ込むというセオリー通りにやり、よくセーフになってくれた。いつも走塁練習を繰り返しやっていた。そんな努力が報われたんだ」

 次いで糸原の打撃もたたえる。「外野フライ(犠飛)を打つのも難しい。ギャンブル・スタートのサインが出ている。ヒットでなくてもゴロでも点を奪うことができるんだというバッティングをしてくれた」

 1点がほしい場面。ただし、監督・岡田彰布はスクイズを嫌う。実際、スクイズの成功率は統計上、5割程度らしい。ファウルもあれば、外されての憤死もある。確実性を重んじるのだ。

 ギャンブル・スタートも好まない。2月のキャンプ中に練習は行ったが、積極的に用いることはないだろう、と平田は感じていた。

 選手に難しいことは要求せず、できることをやらせる。この堅実さが岡田野球の神髄でもある。

 ただし、この夜は別だった。1点を争う終盤、控え選手を起用している場面だった。岡田は勝負に出たのだった。

 「控え選手が働いての勝利はうれしいですね」と岡田に問いかけると「おうよ。ほんまになあ」と笑顔になった。

 開幕当初、スタメン起用していた小幡が活躍していた時、「後ろにいつでもいけるショートが控えているからよ」と、ベンチにいる木浪聖也の存在を口にしていた。控え選手への気配りである。今は逆に木浪がスタメンで活躍しているが、小幡の殊勲はうれしいのだ。

 前夜の完敗翌日の1点差勝利。控えにスポットライトがあたった会心の試合だった。=敬称略=(編集委員)

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