【内田雅也の追球】「穴」での忍耐と不屈――0ボール2ストライクから奪った2つの四球

[ 2020年6月5日 07:00 ]

練習試合   阪神6―0広島 ( 2020年6月4日    甲子園 )

2回1死、高山は四球を選ぶ
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 阪神のジャスティン・ボーアが打撃好調なのは1回裏の第1打席を見ていれば分かった。

 2死一塁。初球、近本光司が走ったのが見えたのか、甘い直球を見送ってストライク。二盗成功で2死二塁。次いで低めカットボールを空振りして2球で追い込まれた。

 2ストライクの「イン・ザ・ホール」である。穴の意味のホールは窮地、苦境を意味する。

 だが、ここから内角高めつり球直球、ひざ元直球、足元カッター、外角ツーシームと4球連続で誘い球を見極め、四球を選んだのである。

 この選球の基となる忍耐が成功のカギを握る。『マネー・ボール』のビリー・ビーンらが四球を選ぶ能力を言う「打席自制心」。真っ向勝負より、際どいボール球で誘ってくることが多い日本では忍耐の方がしっくりと分かりやすい。

 1989年に阪神にいたセシル・フィルダーを思い出す。来日前は控え選手。阪神で38本塁打して退団、大リーグ・タイガースに復帰すると90年から2年連続本塁打王、3年連続打点王に輝いた。「日本で何を学んだのか?」と相次いだ米マスコミの質問に決まって答えた。「それは忍耐だ」

 阪神在籍当時、よく「辛抱しろよ」と指導していた打撃コーチ・石井晶が聞けば、さぞ喜んだことだろう。

 好球が来るまで辛抱強く待つ。日本語で言う「好球必打」である。フィルダーの阪神行きをはさみ前後4年連続20勝のアスレチックスの好投手デーブ・スチュワートは「以前は何でも振ってくる打者だったが、人が変わっていた」と話していた。当時の米紙ロサンゼルス・タイムズの記事にあった。

 ボーアがこの忍耐を身につければ、成功は約束される。この日は辛抱の四球の次の打席、3回裏には内角高め直球を驚異的なライナーで右翼ポールネットにぶつける3試合連続弾を放った。
 カウント0ボール―2ストライクからの四球はもう一つあった。2回裏1死での高山俊である。

 ボーア同様に見逃し、空振りの2球で窮地に立ったが、ファウル4本に際どいボール球を見極めて四球を奪った。得意の曲芸打ちのようなカットもあった。不屈が映る10球の粘りだった。

 その姿勢は次打者にも伝わったのか。野球はやはり互いの心を刺激しあいながら行う団体競技である。直後、坂本誠志郎の三塁ベースに当たる二塁打を放ち、高山は一塁から長駆力走で先制の生還を果たしたのである。

 最後に別件。前日、遊ゴロ一塁送球で間一髪が相次いだ不安を書いた木浪聖也が、安定した守備を見せた。6回表の小園海斗のボテボテ、8回表の野間峻祥の二塁ベース寄りは、ともに難しい当たりで、しかも俊足。それでも素早い送球で一塁は余裕のアウトだったと記しておきたい。一日で見違えた。=敬称略=(編集委員)

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